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 祐耶の吐きだした欲望を、一滴も取り零さず嚥下しようと躍起になる尾崎が、ようやく満足して立ち上がる。
 熱が引いたのは祐耶だけなので、当然尾崎の瞳の奥には燃えるような灯がみえる。

「…夜まで、いい子にして待ってろよ」

 唇の端についた己の残滓を見せつけるつもりで拭いとってやれば、尾崎の肩が僅かに震えた。
 その指を掴まれたかと思えば、彼は祐耶から視線を逸らさないまま……愛撫するように舌で舐め取る。

「―――はい、松本様……夜まで」

 まさに盲目的。その愚かさが哀れであり、苦しくもあった。

「用が済んだら、さっさと犬小屋へ戻れ。遠回りして、興奮を鎮めて帰れよ」

 殊更冷たい口調で、瀬川が居る反対方向に向けて顎をしゃくった。
 普段から自分に心酔する親衛隊には特に冷たい祐耶の態度にも、慣れた様子で…小さく頭を下げた尾崎が踵を返す。自分なら、こんな鼻持ちならない人間の親衛隊長など、頼まれたって御免だ。





「―――で、出歯亀君は、いつまでソコで隠れているつもりなんだ?」
「……す、すみませ…」

 明後日の方向を向いたままで祐耶が話しかければ、慌てたように小枝を掻きわけて、瀬川が姿を現した。
 あんまり急いで葉っぱを避けたものだから、指でも切ったのか「痛っ」と小さな悲鳴を上げる。

「…なにをしてるんだ」
「す、スミマセンっ。あの、俺、見るつもりとかじゃなくって…」
「――の割には、終わるまでしっかり見物してたよなぁ」
「あ…あの、すみませ…」

 いい訳をするつもりだった瀬川は、祐耶と目が合った瞬間に滑稽なほど赤面して、そのまま地面に目線を下ろした。
 初な少女かと言いたくなるようなその仕草に、無意識に笑いが零れそうになる。けれど恐らく、微笑みの形を作っているのは…薄く上がった唇だけだ。


 今、彼が俯いてくれていて良かった。

 もしも少しでも視線を上向けていれば――祐耶の、嫉妬にも似た歪んだ光を宿す…醜い瞳を見ただろう。

 もう全身が汚泥に塗れた自分とは、正反対にいる少年。
 一度でいいから、その美しい心と体を、同じ泥水の中に浸してみたい。快楽という名の沼に堕ちた彼は…どんな風になるのだろう。



 自分は彼を、救いたいのか。堕としたいのか。



「そうだな――口止め料と、見物料。払いながら貰うには、どうしたらいいと思う?」
「そ、相殺でいいんでは……」
「――だよな、なら…」
「え!え、え!?」

 意地の悪い微笑みで近付く祐耶の顔を硬直して見上げていた瀬川が、見る間に追い詰められて…最後は殴られる前の子供のように、ぎゅっと瞼を閉じた。


 馬鹿みたいに閉じられた唇を無視して―――祐耶の唇は、半分髪に隠れていた耳朶を食んだ。


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