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「…まさかここでヤルのか?」
「――すぐに済ませます」

 誘導されて来たはいいが、連れてこられた場所は思った通りの、校舎から離れた庭影だった。
 人が隠れるほどの大木を背凭れにして、忙しなく祐耶の下半身を剥こうとする男に呆れる。確かにこの時間生徒会室には誰かしらいるだろうから、手っ取り早く欲望を満たすだけなら、近場でさっさと済ませる方が効率がいい。

「……っ、すぐに済ますとか、俺が早漏みたいないい方だな…」

 尾崎の望む行為は、彼が跪いた時点で気がついた。

 まだ何の兆しもみせないモノを丁寧に取り出し…根元をやんわり揉みこみながら、尾崎の口が祐耶を咥えこむ。
 憶えのある感触と柔らかな粘膜の温かさにペニスも芯を持ちだしたが、じわじわと湧き上がる欲望と比例するように、胸の奥は冷えていく。


 同性の性器にむしゃぶりつく同級生。
 見慣れた光景。もはや何も感じなくなっている自分に、この場所や環境の異常さを思い知る。いや、そう感じるのは自分だけで…本当は他の閉鎖的な学園や一般的な男子高校生なんて、所詮こんなものなのだろうか?

 ならオカシイのは、自分なのかも知れない。


 尾崎が熱心に奉仕すればするほどに――彼を見下ろす視線に感情が伴わなくなるのが、自分でもわかった。

 本当に哀れなのは誰なのか。
 どうでもいい事だと顔を背けたその時、少し離れた場所に…人の気配を感じた。





「………っ」

 屋外で背徳的な行為に耽る祐耶達を唖然と見つめていたのは、つい先刻接触したばかりの、瀬川孝之だった。

 おそらく―――受け取ったはいいが、どうしていいか分からずに祐耶を追いかけてきたのだろう。
 そして偶然、親衛隊長と話し込む祐耶を発見し…気になって後でもつけて来たのか。


 顔を向けた祐耶と視線が絡み合い、唖然と立ち尽くしていた瀬川の頬が、みるみる朱に染まった。けれど急いで立ち去る気配もない。
 足が固まってしまっているのか、物音をたてて尾崎にまで気付かれるのを恐れているのか。こういった場面に免疫がないのかも知れない。

 なるほど、最愛の委員長とは……もっと穏やかで優しい関係なのだろう。
 身体の関係があったとしても、こんな風に裏庭で隠れて淫蕩に耽るような、欲望だけの関係ではないという事か。




 本当はこんな場面を、これから接近しようとしている瀬川には、見せるべきではないのかも知れない。
 けれど今の祐耶には、重く暗い願望を抑える事が出来なかった。

「……尾崎…もっと深く」
「――っ」

 綺麗に纏めた髪を崩すように両手で鷲掴みながら、ほんの少し屈んで囁く。
 祐耶のモノを頬張りながら、尾崎が一瞬身体を固くして―――勢いづいたように、更に深く、喉の奥まで祐耶を咥えこんだ。

「…ん」

 痺れるような感触に震えながら、じっと見つめたままの瀬川に、ゆっくりと微笑する。


 どこまでもお綺麗な斎賀の恋人に……欲に塗れた自身を見せつけたかったのだ。


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