[携帯モード] [URL送信]



 1年C組瀬川孝之――風紀委員長の恋人にして、特徴と言えば今風に染めた焦げ茶色の髪が恐ろしく似合っていない程度の、何処にでもいる生徒。

「ここでは目をつけられやすいタイプ、ではあるか」

 あれから生徒会のパソコンに繋ぎ取り出した資料には、瀬川の顔写真と身体的特徴等が記載されていた。
 斎賀と付き合いだしたと聞いた時から、敢えて見ようとしなかった情報をこのタイミングで確認しなければならない皮肉。

 写真の中の瀬川は、先日初めて目にした時同様に、芯の強い、澄んだ瞳をしていた。だが特徴の無い容姿が、その唯一ともいえる美点を隠してしまう。
 そして平均より低く軽い体重や凡庸な姿が、彼をこの学園での獲物に位置付ける。
 『餌』の存在を知らない生徒達は、身近で手頃な獲物を求める場合も多い。そしてソレは大抵己より弱い立場の人間なのだ。

「…そう言えば、斎賀との出会いも襲われた現場だとか言ってたか」

 奪い易そうな弱者は、檻の中では搾取されるしかない。早々に斎賀と出会えた事は、この少年にとっては僥倖だった…筈だった。







 ――朝は斎賀が迎えに来て一緒に登校、昼間は友人達と食堂で済ませ、放課後は風紀室で恋人の仕事が終わるのを待つか、クラブ活動をしていない友人と寮へ帰る。夕食は部屋で食べているのか、食堂へ来る事は無く、時間によっては斎賀の一人部屋へ通っているらしい。
 調べるほどに、瀬川という生徒は一人になる時が殆ど無いとわかった。
 自室にいる以外は、ほぼ誰かしらと一緒に行動している。

 接触するなら、警戒され難い昼休みが一番か。

 4限目の終わりを告げる音が響き渡り、生徒達の机を整理する雑音が教師の言葉をかき消して授業は終了した。
 まずは軽い接触から始めようと、用意していた紙袋を掴み時計を確認しながら、祐耶は足早に教室を後にする。


「――よぉ」
「…あ、会長……」

 きっちり時間を計って渡る廊下の真ん中で、友人と2人で食堂へ向かう瀬川と対面した。
 目の前で立塞がるように止まれば、俯いて話していた顔が上を向き…祐耶を確認して、僅かに目を開く。

「お前確か…斎賀の恋人だった、か?」
「――あ、はい…瀬川と、言います…すみません」
「なに謝ってんだ?」
「あ、いえ…すみ…あ、いや、ハイ」
「…面白い奴だな――ああ、丁度いい。これやるから食え」
「え?…え?」
「買ったはいいが、時間が無くなった。捨てようと思ってたからやるよ」

 そう言ってパンの入った紙袋を放り投げると、瀬川は慌てたように受け取ってから、当惑した様子で目を向けるが…その視線を受け止めることなく、祐耶は踵を返した。

 今日はもうコレだけでいい。
 次の接触時に、そういえばと向こうから話しかけてくる理由が必要なだけなのだ。



 ああ言った手前食堂へ入る訳にもいかず、そのまま生徒会室で何か軽く摘もうと歩いていたその先に…見知った影が現れた。
 祐耶の親衛隊のなかでは珍しい体躯の持ち主。

「――尾崎か」

 そこには、生徒会長親衛隊長……尾崎響が、神妙な顔で渡り廊下に佇んでいた。


[*前へ][次へ#]

2/32ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!