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 話は終わったとばかりに理事長室を追い出され、2人でそのまま祐耶の部屋へと戻る。
 呼び止められなかった事にホッとしつつも、なにか裏が無いかと素直に喜べない自分に、祐耶はうんざりした。


「…さすがに薬盛られた後に相手をしろとか、言わないんじゃないの?」
「――あの男がそんなタマかよ。それだけ今回の件は、重要だってことだろ」

 黙り込んだまま部屋まで来た祐耶の思考を掬い取って結論を出す蓮に、肩を竦めて返事を返した。
 手に持ったままだった写真をテーブルに広げれば、先程見たばかりの2人の顔が目に入る。難攻不落の風紀委員長と、その恋人。


「……どうする?」

 蓮は置かれた写真を困惑気味に見つめる。
 この手の命令は初めてではないが、蓮と2人でと言われた事は無かった。つまりそれ程、慎重かつ絶対に成功しなければならないと、暗に仄めかされているのか。それともこの2人のあいだを割くには、誰か一人だけでは力不足とみなされたのか。

「どちらにしろ、甘く見られたもんだな」
「仕方ないよ。もし本気で好き合ってるんなら、何人でかかっても難しい…」
「難しかろうが――やるしかないだろ」
「…わかってるよ」

 俺達が失敗すれば、それは即ち、瀬川孝之の身の破滅を意味するんだ。

 瀬川に対して「どうしてくれても構わない」と言い切った理事長の、硝子のような瞳を思い出す。餌を使っての穏便な引き離しが成功しなければ――どんな方法で彼を自主退学、もしくは斎賀と別れたくなるようにするのか…知りたくもない。



「――でも、どうする?今更どうやってアイツに近付けばいいのか…しかも、これ以上ないぐらい嫌われてるんだけど」
「この際、斎賀は無理だと諦めた方がいいかもな。理事長の言う通り、俺が瀬川を落そう」
「……大丈夫なの?」
「誰に言ってる?」

 含まれた言葉の意味を、祐耶はわざとかわして口角を上げてみせた。


 まずは自然に彼との距離を縮めていき、蓮には必要な時に、斎賀の足止めをして貰う事にする。2人が一緒ではガードされるだろうし、瀬川を絡め取ろうとしている意図に気付かれては面倒だ。

あの男の知らないうちに距離を詰め、振り向いたときには、可愛い恋人は祐耶の手の中に堕ちている。



「失敗しても、成功しても…風紀からの風当たりは更にきつくなりそうだな」
「―――だね…」


 じゃあ、必要な時には合図して。

 そう言い残して、蓮は消えた。



 それ以上なにも言わないで出て行った理由なんて…聞かなくてもわかる。だから兄弟なんてものは厄介なんだと、小さく笑った。

 今日はこのまま、1日中眠ってしまおう。



 明日からまた―――何もかも捨てる学園生活が始まるのだから。


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