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狼と忠犬
放課後
 風紀室は、第一校舎・第二校舎・特別校舎の3つ全てにある。
 俺が呼ばれたのはどの場所だろうかと、まずは一番近い、普通教室である第一校舎の風紀室へ直行した。

 二回のノックで返答があり、風紀室の扉はすぐに開いた。
 出てきたのは緑のネクタイをした、あまり見かけない3年生だ。奥に人の気配は無さそうなので、此処じゃなかったって事か。

「どうした?」
「日……副委員長に、放課後足を運ぶよう言われて来ました。話を通しておくと聞いていたのですが。」
「ああ、ならこっちじゃねぇな。委員長が基本特別校舎の方だから、そっちじゃないか?連絡入れようか?」
「いえ、大丈夫です。有難うございます。」

 やはりそうか。
 一礼して扉を閉め、急いで特別校舎へ向かう。

 いつも俺を追いかける奴らと出くわさないよう、終礼と同時に出てきたのだ。そろそろ廊下にもチラホラと生徒達の姿が増えた。目をつけられない内に急がなければ。
 万が一日影さまを待たせてしまうなんて事態になったら大変である。俺は出来るだけ(元々薄い)気配を消しつつ、歩幅を広げた。






「―――ようこそ風紀室へ。」
「……はい。」

 まだ人気のない特別校舎に入りさあ風紀室に着いたぞと息を吐いた瞬に、早苗さまが笑顔で出てきた。
 まだノックすらしていない俺は、思わず廊下の天井を見上げる。カメラらしき物は無い……気がするぞ。

「話は日影から聞いてるから、まぁ入って。」
「失礼します。」

 特別校舎にある風紀室は、第一校舎よりも広かった。あちらは何度か早苗さまに呼び出されて入った事があるが、特別校舎になんて一般生徒が来ることはまず無い。
 あそこにある扉が噂に聞く「開かずの部屋」か、などとボンヤリしているあいだに、早苗さまが引き出しから紙を一枚取り出した。

 いよいよ、過去の悪事が糾弾される時間ですか……
 どれだ。色々思いあたり過ぎてひとつに絞れませんが、まさかの全部纏めて一括で処分とか、そんな感じでしょうか!?

「じゃ、ここにサインして。」
「はい。」



『以下の者を 年 月 日付で風紀委員に任命する』


「……風紀委員?」
「うん?風紀に入るんだろ?」

 指先で紙をトンと叩かれ、慌ててペンをとった。
 風紀?え、風紀って風紀委員の風紀?
 訳もわからず書けと言われた場所に署名していると、早苗さまがパソコン画面に目を向けながら「来たな」と呟いた。その声と同時に、扉が開いて日影さまが姿を現す。

「日影、お前友近に説明してなかったのか?」

 俺から受け取った用紙をヒラヒラさせながら早苗さまが笑えば、委員長の机の前で屈んだままの俺の真横に近づいた日影さまが、その紙を摘んで目を細めた。

「―――よし、書いたな。」
「はい。」
「だから、説明したのかって。」
「お前明日から正式に風紀委員に入る。俺の下な。」
「はい。」
「いやいや、ホラ言ったぞみたいな顔してんじゃねーよ」


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