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メールで指定された場所に行くと一台の車が止まっていた。どうしたらいいのかと迷っていたら、運転手の人に「篠原様、どうぞお乗り下さい。」と言われたので、車に乗り込む。本来なら学園の外は出られないはずなのだが、モサ野郎が理事長に事の経緯を伝えたのかあっさり出られた。ダンスパーティーの賞品にここ迄許していいのだろうか、と不安に思いながら着くまでの間、車の窓の外の風景を眺める。

学園の外は何年振りだろう。

小学生の頃、家庭の事情で此方に入って以来、久しぶりの外の世界の変わりように呆然と眺める。あの頃よく行った公園や高台は残っているのだろうか。顔はもう覚えていないけど、あの時一緒に遊んでくれたあの子は元気だろうか。懐かしい所に行きたいけれど、どこにあったのかもわからないし、モサ野郎と出掛けるのでそれは出来ないだろう。
長い事走っていた車がとまり、近くの時計台に待ち人がいるということで降りる。運転手さんは「ご帰宅頃に迎えに参ります。」そう告げて通った道を迂回して走り去って行った。

「悠斗!」

声をする方を振り向けばモサモサカツラを取ったモサ野郎こと朔君が笑顔で此方に手を振る。

「すいません、待たせましたか?」

「ううん、俺も今来たところだから。」

定番のお決まり文句をサラッと言いのけられ、不思議と気持ち悪くはなかった。

「さ、思い出の地巡りに行こうか。その前にお腹空かない?」

そう言われると朝から何も食べていなかったことに気づく。

「そうですね、軽く何か食べたいです。」

「よしっ、この近くに美味しいお店があるんだ!」

そう言って嬉しそうに俺の手を引いて早足で歩きだす。俺は転けないように足元を注意しながら、彼の後を追う。
暫く歩くと繁華街らしきところに出て、そこから少し歩いた所に彼の言うお勧めのお店があった。
中に入ると外の賑やかさとは変わり、落ち着いた雰囲気のお店だった。

「マスターお久しぶり。」

マスターと言われた男は彼を見るなり目を大きく開いて驚いた表情をする。

「朔、朔なのか?!ひっさしぶりだなぁー元気にしてたか?」

「うん、マスターも相変わらずでなにより。ね、感動の再会を祝して美味しいものご馳走してよ。」

「ったく、仕方ねーな。どっかテキトーな場所に座って待ってろ。」

「ありがとう。」

近くのテーブルに座るとマスターがお水とメニューを此方に持ってきて「どれでも好きなのを頼め。遠慮はいらねーよ。」とニカッと笑って言うマスターだが、遠慮なしに一番高いメニューを言う朔君に苦笑いを浮かべる。

「悠斗はどうする?」

「えっと、じゃあ、このモーニングセットで。」

「遠慮しなくていいんだよ?」

「そんなにお腹空いてないから大丈夫ですよ。」

「そう?じゃあ、その二つでお願い。」

最後に飲み物を告げて料理ができる迄の間、先にきた飲み物を飲みながらこの後の行き先について聞いてみた。

「この後は何処に行くんですか?」

「知りたい?」
グラスに入っている氷をストローでクルクル回して、意味深な笑みを浮かべた。
そこまで知りたいかと言われればそうでもないが、変なところに連れ回されては此方が困る。

「大丈夫、思い出の地を回るだけだから変な所には行かないよ。」

心の中を読まれビックリした。
無意識に不安な表情を浮かべていたのだろうか?
両頬に手を当て顔の表情を探る。

「あはは、悠斗可愛いなぁ。そんな所も好きだよ。」

「なっ?!」

何を言い出すんだ、此奴は!
なんとも言えない気分になり、顔を背けてしたを向く。

「ごめんごめん、けど、さっき言ったことは嘘じゃないからね。」

場に沈黙が流れる。それを破ったのは料理を運んで来たマスターだった。

「…おっほん、イチャイチャしている所悪いがお食事がで来ました。」

「本当だよ。マスターのせいでいい雰囲気ぶち壊し。」

「へーへー、運んだらさっさと退散するよ。」

「す、すいません。」

「別にいーってことよ。また、何かあったら呼んでくれ。」

「はーい。さ、食べよ。マスターの作る料理本当に美味いから。」

お互いに手を合わせて頂きますをして、マスターお手製の料理を食べる。確かに朔の言う通りマスターの作った料理はどれも美味しかった。モーニングセットについている珈琲も自家焙煎らしく、とても味わい深かった。
食後にはなんとデザート迄用意してもらって何とも申し訳なかったが、マスターが美味いって言ってくれた御礼にと果物盛りだくさんのタルトと紅茶までご馳走になり、十分にお腹と心が満たされた。






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あきゅろす。
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