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ビフ赤短編集
おまけ
ビーフステーキに言い負かされ、実に悔しいが今はそんなことを気にしている場合ではない。
「御侍、来てやったぞ。」
「本当に、1発本番でいいのか?」
心配気に眉を八の字にする御侍。だが、俺様も後には引けないため頷いた。事の発端は数日前のことだった。


「最近あいつがやけに甘ったるい匂いをつけているのは、こういうことか。」
「あらら…、バレたか…。」
バレンタインフェアでレストランが賑わっているのにも慣れつつある。
だが、あいつからチョコレートの匂いが香るのは可笑しい。レストランで働いているのはマネージャー食霊か、オムライス、梅茶漬け、甘酒団子だけだ。最近コソコソと怪しい動きを見せていたこともあり、御侍の居る場所を聞いて厨房を覗いた瞬間、パズルのピースがカチリとはまる音を聞いた。
「そんで、赤ワインはどうする?ビーフステーキを揶揄うか?」
「それもありだが、もっと面白いことを思いついた。」
不敵に笑うと御侍は驚いた表情を浮かべた。
あいつに負けたくない。ただ、それだけだった。

「それで俺様が頼んだ材料は用意してくれたか?」
「ちゃんとね。というか、赤ワインお菓子作ったことあるの?」
「まあな。」
昔の御侍の趣味だったから、それでも簡単なものぐらいしか出来ないため良い材料と少しのアレンジで勝負をかけるしかない。
「で、何作るの?」
「生チョコと言ったか。お、あった。」
「……怒られても知らないよ。」
アレンジに加えるのはジンジャーブレッドが愛飲している果実酒にした。そこまで度数が高い訳でもないが、風味の良さがチョコの甘さと喧嘩することもないだろう。
「手伝いは?」
「無用だ。」
どうせあいつだって一人で作ったのだろう。あいつに出来て俺様に出来ないわけがない。
チョコレートは細かく刻む。生クリームを火にかけ周りがふつふつとし出したところで火から下ろす。ボウルに刻んだチョコレートと生クリームを入れ、真ん中からゴムベラを底に擦り付けるように混ぜる。乳化したのが見られたら全体を良く混ぜる。バターは生クリームを火にかけると同時に溶かしておいたのでそれを入れ更に混ぜる。ツヤが出たところで果実酒を注ぐ。更に混ぜ、混ざったものをバットにクッキングシートをひいて置いたものに流し込む。あとは冷蔵庫で冷やし固め、一センチ角に切ってココアパウダーをまぶせば完成。
「おお…。手際も良いし、レストランで働く気は…、」
「ない。ラッピングも出来たから、預けておく。」
「はは…、振られるのが早かった。うん、預かっておくよ。いつ取りに来る?」
「あいつの前に決まってるだろう。じゃあな。」
特に会話もなく早々に立ち去ろうとすると少し寂しげな顔をするものだから、一肌脱ぐしかないだろう。
「そこにある小さい箱は貴様の分だぞ、御侍?」
さっと身を翻してあいつの元へと向かう。

「ああもう…、最高だな。」
厨房に残された御侍はニヤける口元を正そうともせず、赤ワインからの贈り物を持ってそこを出た。

Happy Valentine to you~

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