A 「りょ」 「違うって言ってるでしょ!」 これ以上、側にいたくない。 くるりと背を向けて歩き出す。 まさか、まさかこんな所で……。 不覚にも涙が出そうになって歯を食いしばった。 もう用はない。 とにかく早くこの場から去りたかった。 どうせ、明日には忘れてしまうだろう。 「ゆう!」 また声をかけられた。 今度は確実に自分を呼ぶ、よく知った声。 正門の方からだ。 そこには人集りが出来ていて、ざわめいていた。 「海斗だよね?」 「海斗!」 「本物!?」 「カッコいいっ」 「背、高いね〜」 「足長〜い」 「顔、ちっちゃいよ」 その中に一際目立つ長身の男がこちらに向かって手を振った。 相変わらず眩しい笑顔。 「海斗さん!」 思わず叫んで駆け出した。 人集りを掻き分けて隣に立つと、ようやく安心出来た。 微笑むと辺りがまたざわざわする。 「誰?」 「知り合いかな?」 「なんか、地味な子ね。」 「新入生かしら……」 たくさんの視線は居心地が悪い。 だがさっきの男の視線とは質が違うと分かる。 男女のひそひそと、だが確実に聞こえる声。 こんな好奇な視線は好きではないが、慣れている。 何故か俺の周りは美形が多いから。 「海斗さん、こんな所にどうしたんですか?」 「撮影が近くであってさ。早く終わったから祐(ゆう)がいるかな、て。 もう終わったんだろう。 一緒に帰ろう。」 「はい。」 強い視線を背中に感じた。 振り返らずとも先ほど勧誘してきた男だろう。 振り返りたいような、振り返りたくないような……。 思わず手が伸びたのは不安だから。海斗の腕を持つと不思議そうに見下ろしてきて、何かに気付いたのだろうか。 後方を見て、目を細めた。 そして、何を思ったのか守るように肩を抱き寄せる。 [*前へ][次へ#] [戻る] |