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第1話 舞い落ちた、桜の花びら

「綾【リョウ】!」

ドキッとした。

不意に腕を取られ、勢いよく引かれて軽くよろめいた。
思わず眉根を寄せてしまう。

「綾、だろ?」
なかなか反応しないので不安になったのか呼びかけてきた男は若干声音を落としてもう一度尋ねてきた。
そこでようやく顔を上げて、男を見る。
身長差で少し見上げなければならないのが癪に障るな、思った。
「人違いです。」
はっきり言い返すと、男は驚いたように目を見開いた。
「嘘だ。」
「は? 何訳分かんないこと言ってんの、先・輩。」
「え、なんで先輩?」
「…………・そんなの格好見れば、分かります。
 それより手、離してもらえます? 痛いんですけど。」
「あ、ごめん。」
パッと手が離れた。
伝わる温もりが……当然無くなる。
名残惜しいとは、思わない。
「それじゃ、失礼します。」
この瞬間、関係は無くなるのだから。
「ちょ、ちょっと待って!」
しかし、彼は許してはくれなくて……。
「俺、急いでるんですけど。」
「俺?」
「?」
「あ、いや。ごめん、知り合いに似てたから。人違い、か……うん、人違いだ。
 でも俺を先輩って言うなら新入生だよな? だったら、ウチのサークル入らない?」
「は? 何言って……」
「そうだよ、サークル入ればいいんだよ!
 君が入ってたくれたらノルマ達成だしっ。」
「俺、サークルとか興味ないんで。」
「なんで? 楽しいよ。」
馴れ馴れしくてイライラする。
軽そうで、お洒落でいかにも今時の学生。
それにこうして話していても通る人たちがつい魅入ってしまうような美形。
普通の……人。
なんの苦労もせずに育ってきた、自分とは住む世界が違う人。
自分の二の腕をそっと撫でて溜め息を付いた。
億劫そうに見えるだろうか。
「俺は勉強しに大学に入った。あんたみたいにチャラチャラ遊んでる暇なんてないんですよ。
興味もない。」
突き放すように言うとじっと見下ろしてくる二つの眼。

ある種の確信めいた目の力に、ぞわっと鳥肌だった。

ダメだ、と思った。

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あきゅろす。
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