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第一話 桜と、君


待ちに待った入学式。
少しだけお兄さんお姉さん顔をした子供たちが興奮と期待に胸を膨らませ母親に手を引かれ、小学校の校門をくぐった。
幼稚園とは比べものにならないくらい大きな校舎に圧倒される。

母親が掲示板で何かを確認しているとき、風が吹いた。
「拓実(たくみ)は3組ね。」
母親の声がどこか遠くに感じて申し訳程度に頷く。

ふと視線を動かす。

はらはらと舞う桜の花びら。

一陣の風。

立派な枝葉の桜の下、見上げる、一人の男の子。

母親に手を引かれるでもなく、たった一人。

背格好は自分と変わらないから、同じ新入生なのだろう。

桜に魅入られたように見上げていた。


その姿が子供の目にもとても綺麗で、風景が霞んだ。



「りょう君!」

後ろから声がかかりその子が振り返った。

女性は右手に1人女の子を連れて彼の元にやってきた。

「りょう君は3組、アユミちゃんは1組ね。」

1人ではなかったようだ。

みんなと同じお母さんに連れられた新入生。
2人は兄弟なのか。
だとしたら双子なのだろう。
春まで通っていた幼稚園にも双子がいたから同じ年の兄弟は不思議に思わなかった。

そして1年3組なら……“りょう君”とは同じクラス。

何故かそれがとても嬉しかった。


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡


入学式をソワソワしながら済ませると、担任の先生に連れられ初めて親元を離れて教室に入る。
机の右上には名前が書かれていて、大体の子供たちは自分の名前が書かれた場所に腰を下ろした。

だが勝手が分からないのか、さっきの“りょう君”が不安そうに辺りを見回していた。

「どうしたの? 自分の席が分からない?」
先生より先に声をかけたのは拓実。
すると真っ黒な瞳がじっと見返してきた。
そして恥ずかしそうに俯きながら、“りょう君”はコクンを頷いた。
「そっか、名前なんていうの? 俺が一緒に探してあげるよ。」
「本当? 僕、みなかみりょうって言うの。」
「“りょう”君?」
「うん。あの……」
「俺は、くじょうたくみって言うんだ! みなかみだからきっとこっちの方だよ。」
そう言って手を引っ張って窓際の方へ導いた。
通っていた幼稚園は同じ“名前の順”で席が決まっていたのだ。
途中後ろに立っている母親と目が合うと微笑んでくれた。
きっと拓実の行動が正しかったという事。
それにりょう君も笑ってくれた。

「ありがとう、たくみ君。」


それが“りょう”と“たくみ”の出会い。



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