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第0話 カミサマの悪戯

4月某所。

桜が満開を迎えた、よく晴れた日。
大学の入学式は他の敷地にある武道館で行われて、今日は学部ごとのオリエンテーション。
校門から校舎までの道は色々なサークルが新入生をいかに勧誘するかで、あちらこちらから奇声に近い金切り声が上がる。

そう言う俺も先輩にプラカードを持たされメガホン片手にさっきから声を枯らしていた。
今時珍しい、風景かもしれない。
桜が舞い散る風流さとはまるであわない光景だ。

「か…勘弁してくださいよ、先輩。
 俺この後バイト入ってるんですけど。」
すでに声はガラガラだ。
この後のバイトに完全に支障をきたすだろう。
「勘弁してほしかったら最低一人は勧誘してきなさいよ。」
なんという横暴。
絶対無理。
こんな、訳のわからないサークル。
テニスでも、ウィンタースポーツでもない。
ましてやイベントサークルでもないのだ。
誰が好き好んで坂道を歩きたいかっていうんだ。
そう、俺の所属は坂道研究会というなんともマニアックなサークルだ。
特に何をするでもなく、言うなれば町を散歩してあえて坂道を歩く。
歴史ある坂道には謂われなんかもあるからそれを読んだり調べたり。
ほとんどそのあとの打ち上げの飲み会がメインとしか思えない。
それも参加は自由だから幽霊会員も合わせると部員は意外にたくさんいる。
去年俺は半ば騙されて入ったようなものだ。
まぁ、つまらなくはない、と思う。
先輩は頼りになるし、なにより全く知り合いがいない状況で入学した者にとってサークル参加というのはいろいろと良い切っ掛けになった。
おかげで友人もそう苦労することもなく出来た。
「大丈夫よ、あんたは立っているだけでいいのよ。
 その顔が客寄せになるんだから。」
にぃっと先輩はあくどい笑顔を向けた。
背筋に冷たいものが伝う。
この人は自他共に認めるドSで誰も逆らう事が出来ない。
まぁ、自分の容姿が多少優れているというのは自覚はしている。
小学校高学年になった頃からだろうか。やたらと女子たちがコソコソしだして、5年の時に初めて告白された。
それからは何回もそういう事があって、付き合ったこともある。
だから、人並み以上なんだろうとは思うがだからと言って得したこともない。
はっきり言ってうざい。

だから客寄せパンダなんて御免だ。
「え、えー、俺もう声でま……せ、……え?」
プラカードを杖にしてその上に顎を乗せながら弱音を吐いていた俺の目の前を通り過ぎる一人の青年。
目を引くような特徴はない。
あえて言うなら今時、そちらの方が珍しい黒髪。
やや長めのその黒髪がさらっと風に靡いて通り過ぎていく。


心臓がドクン、と跳ねた。


まさか!


でも。


「先輩ちょっとすみません。」
「え? あ、ちょっと九条!」

先輩にプラカードを押し付けると俺はその青年を追って走り出し、追いついて、そして手を掴んだ。




「綾【リョウ】!」




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あきゅろす。
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