F
「俺は勉強しに大学に入った。あんたみたいにチャラチャラ遊んでる暇なんてないんですよ。
興味もない。」
彼がそう言った時の仕草に目が釘付けになった。
左の二の腕を撫でる仕草。
右の口の端が僅かに上がる。
それは綾が嘘を言う時の癖。
本人は気付いていなかったみたいだが幼なじみの俺は子供の頃から知っていた。
だから綾は俺に嘘をつけなかった。
あれは綾だ。
確信した。
ずっと気になっていたのだ。
あの遺体は本当に綾だったのか、と。
綾は病死ではない。
事故死でもない。
殺された。
今でもあの独特の空間を思い出すと震えが来る。
薄暗い地下。
どこまでも靴音が響くような静かな長い廊下。
頬に纏わりつく、ひんやりした空気。
独特の部屋に横たわる白い山。
霊安室に入ったのは当然初めてだった。
4人の祖父母もまだ健在で、ペットの死すら立ち会った事はなかった。
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