D 「今時ゲイのモデルなんて珍しくもないでしょ。 それくらいで揺らぐような仕事はしてないし、後ろ盾だってね……」 ペロッと下唇を舐めて、いたずらっ子のように海斗が、くす、と笑う。 「凄い自信。」 「まぁ簡単に足を掬われる時もあるけど、性癖はずいぶんオープンな時代になったよ。」 「それでも近親相姦はダメでしょ。俺は“弟”なんでしょ?」 「あ、そうかぁ、祐は腹違いの弟ってさっき言っちゃったもんねぇ。 でも、その背徳感もまたたまらないよね?」 全く………。 自分で設定しながら、その重大さに気付いてないのか。 いや、きっと気づいている。 気付いていながら、それを含めて楽しんでいるのだ。 そう言う人種を、海斗の他に何人か知ってる。 溜め息が出る。 ペロッと唇を嘗めてから海斗はエンジンを掛けた。 男からの口付けを普通に受ける自分も、まぁ普通ではないのだろう。 当の昔にどっぷりはまってしまっているのだ。 それが生きる術だった。 やがてウィンカーがカチカチ鳴って左に遠心力を感じた。 「で、あいつは?」 前を見たままの海斗。 「九条拓実【クジョウタクミ】。 水上綾【ミナカミリョウ】の同級生。」 シートを少しだけ倒して空を見ながら答えた。 「綾の、か。世間は狭いって本当になんだな。 ただの同級には見えなかったけど?」 チラリと海斗を見る。 海斗にはきちんと話さなくてはならないと思う。 この人は俺の飼い主だから。 詳しくは聞かれなかったから大雑把にしか説明していなかったが、その時がきたのかもしれない。 会わなければ有耶無耶に出来ただろうに。 「ただの、クラスメートだよ。」 少なくとも、拓実にはそうだったはずだ。 そんな認識も無かったかもしれない。 溜め息を落とし、祐介はそっと目を閉じた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |