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勘違いスペアキー


あやふやの真実。






 「なあ、これ何だと思う?」
 「? 鍵ちゃうん??」


 差し出された白い手のひらには、鍵。
 朝日を浴びて銀色に光っとる。見たまんま鍵答えると「そんなの俺でもわかる」ゆうて浴衣が肌蹴て露わになっとる生足様の爪先で小突かれた。ケータイのアラームが鳴って起きるなり、ミチが思い出したようにハンガーにかけられたスラックスのポケットからそれを取り出してきたそれ。悪い寝相で乱れた浴衣を直そうともせずに鍵をガン見。俺は浴衣から見えそうで見えないちくびに釘付け(浴衣…イイ!)

 「どないしたん、それ」
 「昨日お前が倒れてたとこに一緒に落ちてたんだよ。テンパっててすっかり忘れてた。…お前のではねえの?」
 「うち母ちゃんと婆ちゃんずっと家におるさかい鍵必要あらへんもん、持ち歩かん」
 「そっか…」

 親父ですら持っとらんし、合い鍵なんて持っとるの兄貴くらいや。兄貴ですら忙しくてほとんど帰って来ん(確か今バンドの地方ツアー中やったっけか)

 「じゃあ何処の鍵だと思う?」
 「アパートとか?落としもんなら交番届け、」




 「おはようございます!朝っすよー!ご飯出来てるんで食べにきてくださーい」

 言い切る前にさくらくんが襖から顔を覗かせて元気に挨拶。ご自慢のピン髪プチモヒカンはまだセットされてなくてちぃと寝癖がついとった。俺がおはよーゆう横でミチがだるそうに「おー」とか返事して学校行く支度を開始。


 今日はメリーさんから最後の着信がある日だ。












 昼休み、オカ研部室にて。
 みんなでテーブルを囲んで弁当食いながら本題に入った。


 「メリーさん過去被害者の方々への聞き込み調査をしたところ、変死者・死亡者・負傷者は今まで1人も出ていません。『刺された』なんて事例は、今回の依頼者さんの友人だけみたいっす」

 メリーさんは実在すれど、結末は全くの嘘やったってことか。結局は都市伝説。

 さくらくんがメモ帳の中身を確認しながら説明する中、ミチは頬杖ついて手書きのリストを見ながら黙り込んどる。聞いとるのか聞いてへんのかわからん態度やけど恐らくちゃんと聞いとるんやと思う。俺はとゆうと、ミチが何でこの情報を詳しく知りたがっとるんかよぉ分からず終いなわけで(※口に出したら馬鹿やゆわれそうなのでお口にチャック中)

 「それより…皆最後の電話の後、接触直後の記憶だけ抜けているようなんすよ。どうなってるんすかね〜」
 「簡単な話」

 ずっと黙り込んどったミチがしんどそうに腰をさすってパイプ椅子に凭れかかりながら口を開いた。まだ痛いんか腰…(浴衣えろくて調子乗ってもうたからなぁ)おかげで今日は生理中の女子みたいに機嫌悪かってん。いつの間にか授業サボってどっか行っとったり、かわええけど困った。

 「? 何が簡単なの?」
 「……臨死体験・睡眠時を問わず一時的な幽体離脱の経験者は、必ず自分の器である空っぽの肉体と『川』を目にしてる。しかし、その経験者の大半は離脱期間の記憶が無くなってたり殆ど覚えてなかったり、曖昧な場合が多いんだよ。霊感の無い一般人は特にな」
 「…なあ月路、それってもしかして、」

 たーちょんがテーブルに身を乗り出す。


 「被害者は皆、メリーとかゆう地縛霊の強い霊力で一時的に幽体離脱していただけなんだよ」


 ま、俺の宛てにならねー推察だけどな…と続けて歯切れ悪そうに後頭部を掻く。そのままテーブルに脚を乗っけるもんやからこころちゃんに「月路くん行儀わるいよ?」ゆうて怒られて慌てて脚を下ろすなり俺の脛蹴って八つ当たりしてきた(痛いですミチコはん…)こころちゃんには優しいんに!

 (……ちゅうか、幽体離脱って)

 「悪霊ちゃうなら、何で封印されてもうたん??おかしいやん。酷すぎる」

 浮かんだ疑問をそのまま口にしてもうたら表情を一気に曇らせたミチに軽く睨まれてもうた(怖っ)不機嫌MAXやな…。

 「お前、長い間成仏出来ずにあれだけの広い土地に憑けるレベルの強い地縛霊が、そのまま悪霊にならないと言い切れるか?」
 「それは…」
 「霊体ってのは人の意思・欲望の塊魂みたいなもんだ。邪魔だと思えば排除しようとする。寂しけりゃ誰かを道連れにしようとする。本能のままに動く。ほっときゃ本格的に人を襲う悪霊になり兼ねない。…ジジィはそれを未然に防いだだけだ」
 「ミチ、その言い方は無いで?メリーさんは寂しいだけで、」
 「例のごとく三途の川まで連れてかれた奴が何言ってんだよ。霊に悪気はなくても、下手したら死んでたんだぞっ」

 泣きそうに歪めた顔でそうゆわれてそれ以上何もゆえんくなってしまう(散々心配かけてもうたし…)ごめん、って小さく呟いてテーブルの下こっそりミチの手のひらを握ったら俯きながらぎゅっと握り返してきた。

 「ねえ部長、刺されたとゆう例外の事例はどうなるんすか?」
 「あ゛ーっ問題はそれなんだよなー!ちょっと検証してくるっ」


 月島いくぞ!


 悩ましげに頭くしゃくしゃ掻き回したミチがいきなりすたっと立ち上がって俺のベージュのカーデの袖を引っ張る。あまりにも突拍子あらへんもんやから頭に?マーク浮かべたまま食べかけのサンドイッチ残して連れられるがままに部室を出た。












 「み、ミチっ何処行くん?」
 「刺された被害者のクラス」

 そうゆうて、袖を引かれたまま連れて来られたんは2階南校舎の3年B組。上級生しかおらん階に堂々と脚を踏み入れたミチはB組の入り口で楽しそうに喋っとる数人のギャルの集団に目を付けた。「あいつらに話聞くぞ」ゆうてきて頷くとそのまま歩み寄る。

 「先輩方、ちぃと時間貸してもらってもええですか?」
 「訊きたいことがあんだけど。だめ?」

 会話に横入って声をかけるなり、集団の中のひとりがきゃー!ゆうて黄色い声をあげた(思わずびびった)ミチが怪訝そうに小首を傾げる。無自覚上目遣い付で。み、みんな目がハートになっとる!(ミチコパワー恐るべし!)

 「ちょ、月組じゃない?2年のっ」
 「やーんかわいい!綺麗!2人とも顔ちっちゃーい!」
 「時間とか全然いいし!話ってなあに??」
 「ここじゃあれなんで踊場の方に」

 俺らの知名度どないやねん思いながら階段の踊場の方へ移動。その間両腕にべったり先輩たちがくっついとって歩きにくかった(ミチ限っては笑っとるんやけどこめかみに青筋浮かんどる)俺は自分もギャル男やし、ギャルとか姫とか好きなタイプやけどミチ絶対ちゃうもんな…。

 階段に座り込むと、ギャル達が質問攻めを始める前にミチが口を開いた。

 「大谷幸恵センパイと後藤利佳センパイのことなんだけどさ、あの2人って仲良し?」

 『刺された』事例の被害者・大谷幸恵と、依頼者・後藤利佳。
 後藤はんの証言では2人は自宅も近く、幼なじみで大の仲良しってことになっとる。ミチは何でまたそないなこと気にしとるんやろ。

 「えーあの二人仲良かったっけぇ?」
 「幸恵ってさぁ、リカのせいで不登校になったって聞いたんだけどー」
 「は?2人仲悪いん??」
 「昔はよかったんだけどぉ、今はどうだろ…。男取り合って何回もケンカしてるみたいだし、最近リカが同居までしてた幸恵の彼氏寝取ったって話。リカも今ガッコ来てないし」
 「噂じゃ2人してメリーさんに呪われてるとかなんとかー。幸恵メリーさんに襲われて大ケガしたんだって」
 「それありえねーし!メリーさんとかいないから!あいつらウケるー!頭イってるっしょっ」
 「メンヘラとかまじ勘弁なんですけどー」

 (女子こえぇー…)俺がドン引きしてる横でミチが眉間に皺を寄せながら何かを考えとるみたいに手のひらで先ほどの謎の鍵を転がす。

 「彼氏と同居…大谷センパイって一人暮らしだったの?」
 「そうだよー?」
 「その彼氏のアドとか知ってる?今連絡とれない?」

 月路くんもしかして幸恵すきなの?!とか騒ぎ始めたのを俺がなんとか鎮めて改めて交渉。ギャルの中の1人が携番知っとるみたいで応じてくれた。

 通話ボタンを押して手渡されたケータイを、ミチが耳に当てて集団からちぃと離れる。

 ミチが大谷はんの彼氏と何かを話しとる間俺がひとりギャルの話相手にさせられて全員とメアド交換するはめになった(めんどー)俺にはミチおるし女に興味あらへんねん今。そうこうしてるしてるうちに愛しの彼女はんが戻ってきた。


 「月島、帰んぞ。早退する」
 「え、マジで?」


 戻って来るなり帰るゆうて俺のカーデの袖を引っ張って踵を返すミチ。もう帰っちゃうのだのなんだの残念そうにぴーぴー声を上げるギャル達に振り返って「さいなら〜」ゆうてミチと歩調を合わせた。















 荷物持って帰る支度を済ませると、足早に校舎を出ようと玄関に向かった。

 「なんだ、お前らサボる気か?」
 「げっ」

 先生に見つかった面倒やから、わざわざ遠回りして階段を下りたんに早速日比谷先生と鉢合わせ。ミチがあからさまに嫌そうな顔をするもすぐに顔の前で両手を合わせて上目遣いで「大事な用事があんの、見逃して?」ゆうて小首を傾げる必殺技炸裂(下半身にクる…!)先生は少したじろいだものの、その手には乗らないといった表情でミチと俺の頭を軽く叩くも深く溜め息を吐いてその場を去っていった。

 きーたんやさしい!(ちゅうかミチに丸め込まれとるっちゅう噂ガチ?)
 ふんってミチが鼻で笑う腹黒い瞬間を俺は見た。

 「ミチ、なんか分かったん?」

 玄関で靴を履き替えながら質問を投げかける。ああ、と返事をするも黙り込んでそれ以上を語らないのがもどかしい。気になってしゃあない俺は、校門を出たとこでもう一度尋ねてみた。

 「この鍵は恐らく、『刺された』事例の被害者の自宅の合い鍵だ」

 「…え、ほんまに?何でまたあんなとこに」

 「わかんねー。恐らく、メリーさんが何かを伝えたくて川に投げたんじゃないか?まあ『何か』なんて分かりきってるけどな」

 「なん…?」

 「『わたしはあの人に危害を加えてなんてない』。鍵から俺に流れ込んできた言葉だ」

 ミチも得意ではあらへんみたいやけど、こころちゃんと同じメトリング能力がある。(聞こえてたならもっと早くゆってほしかったわ…)メリーさんが人を傷付けるわけあらへん。うちもそう思ってる。しかしそれを証明できる人も、物もなかった。

 せやから、あんな悲しい目しとったんや、きっと(…悔しい、)


 「俺は、ほんとの加害者は依頼主の後藤本人なんじゃないかと思ってる」


 ……何やら、すごいことになってきはりました。






あきゅろす。
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