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Rewrite!...But,Delete.


間違っていたのは、すべて。






 常闇の中で声が聞こえた。

 あの女の子じゃあらへん、もう1つの声。


 「…っ」
 「月島っ起きたのか!?」

 重い目蓋を持ち上げて目に入ったのはミチとこころちゃんの心配そうな顔やった。ミチの声を聞きつけた他のメンツが集まってくるも頭がぼーっとしてまわらへん。垂れ目がちな綺麗な目に涙を溜めたミチがぐずる横でこころちゃんが小首を傾げながら「おはよう」ゆうて濡れたタオルで俺の額を拭った(天使が2人もおる…)ちゅうかなんやねんこの状態。頭がぐるぐるまわる。

 目が覚める前の記憶。

 川の中の女の子。牛頭。三途の川。賽の河原。メリーさん。ん?メリーさん…??


 (そや、メリーさん!)


 「ミチっ!メリーさん!メリーさん助けなっ!!」
 「は、はあ…っ?」
 「メリーさん悪霊なんかじゃあらへんねん!」
 「島さん、落ち着いて」

 俺らは邪推していたんや。
 先入観を持ちすぎて、あんなちっこい女の子をただの悪霊やと誤解していた。

 起き上がって必死こいて訴えながらミチの薄っぺらい肩掴んでがくがく揺さぶっとったらこころちゃんに優しく手首を掴まれて我に返る(全部思い出した…)とりあえずこころちゃんのゆう通り大きく息吐いて落ち着かせる。心配そうに眉を下げとるミチの頭を「ごめんな」ゆうてくしゃくしゃ撫でながら今の自分の状態確認。辺りを見渡してみると、どうやら俺は広い和室の真ん中に敷かれた布団に寝かされていた模様。時計の針は夜8時をさしとる。おまけにオカ研のメンツが(先生とさくらくん以外)全員揃っとる。どうなってるんや?って首を傾げたら丁度おぼんに人数分の温かいお茶が入っているであろう湯呑みを乗せたさくらくんが襖を開けて部屋に入って来た。湯気が立つ湯呑みを皆に配りながら俺に「よかった、月島先輩目覚ましたんですね!」と笑顔をむける。

 「なあ…俺どうなって、」
 「例の3丁目の祠の前に何故かずぶ濡れで倒れてたんだよ、島さん。突然月路からお前がいなくなったって連絡きたもんだから焦ったよ…」
 「皆で街中捜し回ったんすよー。ちなみにここオレん家っす」
 「ほんまに?まったく覚えとらんわ…。皆すまん、勘弁な」
 「…つかメリーさんが悪霊じゃねぇってどゆこと?俺にもわかるように簡潔に説明しろ」

 3丁目の祠。
 ミチのじいちゃんがメリーさんを封印したゆうてた所か。なんでまたそんなとこに倒れてたんや自分…。

 「俺、店の前でメリーさん見てん。でなぁ、…………」
 「なに、どした?」
 「…あまりにも現実味あらへんさかい上手く説明出来へん……」
 「バカしまー!仕方ねぇな…頭われたら責任取れよ。こころ、頼む」
 「……わかった」

 あまり浮かない表情で頷いたこころちゃんがさくらくんに「後で頭痛薬頂ける?」ゆうてお願いするとさくらくんも頷いてまた部屋を出て行った(何するんやろ?)ミチもあまり浮かへん顔しとるさかい良いことではなさそうや。

 こころちゃんは右手の蒼い数珠を取ると、深呼吸をして俺の左手を握り、左手でミチの右手を握った。

 思わずドキッとしてもうたのは言うまでもなく(童貞かうちは…)

 「島さん、話そうとしていたことだけを思い浮かべて。そこから記憶を辿るから」

 (そないなこと出来るんや…)思わず感心しながら頷くと目蓋を下ろした。きっとミチもこころちゃんもそうしとるはず。横でこころちゃんがミチに「月路くんは何も考えちゃだめよ」ゆうて忠告する。目蓋の裏で先ほどまでの出来事を連想した。ウィンドウガラスから見たメリーさんの姿から始まり、トリップした明治期の街並み。一人の幼い少女の霊の残酷且つ無垢な記憶の世界。楽しげに笑うメリーさん。場面が変わり、心無いいじめに耐えるいたいけな少女の姿が浮かぶ。寂しげな瞳。俺の涙が染みたハンカチ。さらさら流るる三途の川。向こう岸で狂い咲く赤い花。賽の河原。恐怖に震えるメリーさんの小さな肩。太陽のごとく燃えるような赤い瞳の化け物。青い空に振り翳された棍棒。

 メリーさんに突き飛ばされ川に落ちた処で、隣の隣から聞こえた呻き声にパチッと目蓋を開く。頭を抱えた顔面蒼白のミチがたーちょんに支えられていた。慌てて側に寄る俺。

 「ミチっどないしたん!?」
 「月路、大丈夫?」
 「…ん」
 「これ以上は無理ね…」
 「こころ先輩も顔色悪いっすよ?2人ともお薬お薬っ」

 いつの間にか戻って来とったさくらくんから水が入ったコップと錠剤を礼を言って受け取ったこころちゃんがそれをミチの口に含ませた。コップをミチに渡して水を飲ませるも噎せてしもうて、すぐに背中をさすってやる。とりあえず落ち着いたのを見やったこころちゃんも錠剤を口に含んで水で嚥下した。

 「…っちくしょ、もう少しだったのに」
 「仕方ないよ。第六感を駆使してもあれだけの情報は取得しきれない。脳の限界」
 「こころちゃん、これってどうゆう…」
 「……島さんの記憶をわたしが取り込んで、そのまま月路くんの頭の中に転送したの。不可がかかりすぎて全部送れなかったけど…」

 今まで俺が寝かされとった布団に寝かされたミチが悔しそうに舌打ちする。エスパーこころちゃんの新たな能力に驚いてたらミチや俺の代わりに俺の記憶の話を始めた。たーちょんやさくらくんがそれに耳を傾ける。メリーさんの容姿について話してすぐたーちょんが何か感づいたように自分の鞄を漁った。

 「……地蔵逆がいたな。っつうことはあれが賽の河原か」
 「地蔵逆?」
 「お前が見た牛みてえな化けもんだよ」

 ああ、あのグロテスクな牛のマスコットのことか。
 ここで解説係のさくらくん登場。


 「『地蔵逆』は、賽の河原の番人と謂われている鬼っす。両親よりも先に亡くなった子供達のほとんどは、賽の河原で『石積み』と言う罰を受けます。一つ積んでは父の為、二つ積んでは母の為…と両親を悲しませた罪を償いながら成仏を願い、石を積むんです。積み終わる頃に現れ、苦労して積み上げた石を鉄の棍棒で崩してしまうのが地蔵逆です。泣きながら、ボロボロになりながら、子供達が何度積み直しても崩してしまう。…それが永遠に繰り返されます」

 幼い頃に臨死体験をすると鬼が憑くというのも、親を悲しませた罰の内なのでしょう。そう続けたさくらくんの相変わらずの博識ぶりに合掌。そして何ともいえない複雑な気持ちになる。メリーさんは、あんなだだっ広い場所に一人ぼっちで罪を償い続けているんや。罰はいつまで続くんやろう。流石に両親も、もう亡くなってもうてるんじゃ…嫌な予感ばかりが脳裏を過ぎる。

 「……月島、同情すんな。いくら可哀想でもそいつは人を傷付けてる」

 ミチの一言で本来の目的を思い出して息が詰まった。
 月組の依頼内容は依頼者を守り、メリーさんを成仏させること。室内に沈黙が走る。息苦しいそれが続いたときたーちょんが「あのさ」と話を切り出した。

 「実は俺も昨日、××公園でメリーさんらしき女の子見たんだよね…」
 「…は?」

 ほら、ゆうてたーちょんから差し出された一枚の写真。
 いつもの無表情なたーちょんの隣で白くぼやけた外国人の少女がピースしてにっこり笑っとる。(間違いあらへん、)「メリーさんや…」って零したらみんなして目をまるくした。昨日したミチの予想大当たり。

 「一緒に遊んだけど…その子、理由なく生きてる人を殺したり傷付けたりするような子に思えない」

 「俺も。俺もそう思うんよ。悪い子やない」

 「…月路も分かってるんだろ?」

 「……………」

 「信じたいんだろ?なあ。答えろよ」

 珍しく眉を寄せたたーちょんが詰め寄るとミチは目を伏せながら「…ああ」と返事をした。何か色々考えとるみたいでしばらく黙り込んでから、ゆっくり顔を上げた。瞳が真っ直ぐ向いた、意思の強い目。
 長い前髪を右耳の後ろに持っていく仕草にちぃとどきどきした。色っぽい。


 「桜、過去の被害者の情報洗い直してリスト作れ。死因や接触当時の怪我の状態も出来る範囲で調べるんだ」


 口許に少し笑みを浮かべながら指示したミチに「はい!」ゆうて元気よく返事をしたさくらくんの背筋がピンと伸びる。その様子はまるで刑事とその部下。
 (ミチ、きっと何か思い付いたんや!)助けられる方法!嬉しゅうてミチに笑顔を向けると、眉をハの字にしてちぃと困ったように笑った。いろんなミチの笑顔見てきたけど、今日のはとびっきりかわいくて綺麗やと思う。

 そして、やっぱり川の中で見たあの子と瓜二つやった(何やったんやろ、あれ)





あきゅろす。
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