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これが世界の終わり
はっと、目を覚ました。
ここは…ああ、わたしの部屋か。

なんだか…随分と長く眠っていた気がする。

「って…おい!なにこれ!何時?!寝坊?!」

がばっと立ち上がって窓の外をみた。日が、これ…正午じゃんもう…。

わたしはバタバタと着替えて髪を適当に纏めた。ああ、まったく、これじゃあまた仕事が終わらないと怒られてしまうじゃないか!わたしのせいだけど!!!!!自業自得ですけど!!!

急いで外にかけ出して、わたしの勤務地、事務室に向かった。わたしの着物には、事務という自分で縫った不恰好な刺繍がされている。

わたしは、ここで生きている。ここで生きて行くことを選んだんだ。大切な人がいるから…いや、向こうにも沢山居たけれど、その人たちと別れてでも側に居たいと思った人がいるからだ。


「ごっめんなさーーーーい!!!!!!」

「もーう、寝坊!僕より寝坊!」

「いやー、ねぇ?そんな日もあるでしょう?」

「そんな日が今日って、まったく間が悪いなぁ」


事務の先輩。あいかわらずお仕事のダメダメな彼がわたしにお説教だ。まったく偉くなったもんだ。
そんな彼がずいっと、わたしの目の前に入門表を差し出した。

「えっ?!」

そこには、豪快に書かれた彼の名前があった。
来てるんだ!!なんで!手紙もなかった!その瞬間にいてもたってもいられなくなって走り出す。たぶん食堂だ!!いつもそうだ!学園に帰ってくるとまっさきに食堂!わたしに会いに来いよ!!!!!おかしいだろ!!!!!飯優先って!!!!!!

時間を取り戻した世界はぐんぐんと進んで行った。わたしの知っている子の半分が卒業していった。顔を出す子もいれば、出さない子もいる。でも話には聞くから、みんなら元気らしい。忍もいるし、もうその道に進まなかった子もいる。
わたしと共に学んだ、一年は組は四年生だよ、驚きだ。相変わらず馬鹿だけど、みんな揃って成長している。相変わらずばかだけど。

穴掘り小僧はこの春卒業してしまったから、もう学園を思い切り走ったって大丈夫だ。まぁそのさみしさもあるが。

彼は、学園に置いていったわたしに会いに来る。お前はここを知らなすぎる、だから一緒には連れていけないと言われた。悔しいけどその通りだ。わたしには忍の能力もないし、生き方だってわからない。だから、わたしは学園で彼が来るのを待っている。献身的だろ?もうこんないい女いないわほんと。
そんなことを考えてはしっていたら、

「え、」

浮遊間。あれ、懐かしい。

「う、うわあああああああ」

なんでえええうそおおおお!!!穴掘り小僧はいないのに?!だれだよ引き継いだやつ!
って知ってるわ!!!!絶対は組の二人じゃん!!!!!!

どすんっと尻餅をついて涙目。なにこればからしい…あいつのために走ってたらこれかよ……
服についた土を払いながらため息をついていると、不意に影が降ってきた。


「おまえ、相変わらず落とし穴好きだな」


彼だ。
潮江文次郎、その人だ。


「べっつにー、好きでおちてませんけどー」

「じゃあ心底危機感がないんだな。これじゃあ一生連れていけん!」

「はあ?!ちょっ!ちがうじゃん!それとこれとは!」

「ある!すぐに死ぬぞバカタレ!おまえは鍛錬がたりない!俺がいないからってサボってたな!」

「説教?!うざ!あって早々うざ!!!!!」

「説教はあとでだ!とりあえずでて来い!」


といって、差し出された手を掴む。ぐいっと引っ張られて穴から救出された。そのままの勢いでタックルしてみるが、文次郎はひるまない。


「つまんなーい」

「は?」

「押し倒しちゃってラブコメ展開じゃねーのかよーあーあー残念だねー潮江くんー」

「だまれ」

そんなふうにふざけると頭突きされた!!
いたい!!!いたいけな乙女に!頭突き!!!野蛮人だ!!!

でもそれ以上に背中に回った腕が少しずつ力を込められていって、きりきりと体が軋むように痛んだ。相変わらず力の調節が下手だ。


「いてて」

「我慢しろ」


ぎゅううっと、力がこもって、首に顔が埋められる。あーあったかいなぁ。そう思いながらわたしもぎゅうぎゅうも抱きしめた。
この人がいるから、わたしはこの世界を選んだ。
不器用過ぎた時間は過ぎた。プロの忍者として活躍し始めた彼とはあまりあえない。だから、会うたびに、生きていることに感謝して、こうやって愛情表現するのだ。もし当時の六年生がこれをみたら嫌なものを見る目をする。絶対。でも、こんなにも、側にいることが大切でしあわせなのだ。


「ちゃんと守ってやれる自信はない。でも、俺は、お前を連れて行こうと思ってる」

「へ…?」

「今より危険になるが、お前がいいなら連れて行く。すぐに。絶対なんて保証はできない。でも守る。だから、ついて来てほしい。一緒に、暮らせたらって、思ってる」

「わっ…」


一気に顔が暑くなるのがわかった。その熱が涙になってぽろぽろ落ちた。ああ、好きだなぁ、って素直に思った。伝えなくちゃって思った。そしたら、


「好きだ」


先に言われてしまって、その言葉にわたしは頷いた。何度も何度も。


「わたしは世界を捨てて来た、から、なにも、怖くない」


すごく重たい言葉だけど事実で、それも引っ括めて彼は受け止めた。
動き出した時間はぐんぐん進む。ふたりの時間も進んで行く。ただ、そこにあるのは幸せだ。間違いないって、そう思うよ。

潮江文次郎、あなたが世界だ。



2013.07.19




あきゅろす。
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