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ユカタさん

「先輩、」

からりと音を立てて入ってきたのは、少しだけ眉を下げて不安そうな顔をした綾部。
熱で重い体をゆっくりと起こし微笑んで手招きしてやると、おずおずと部屋の中に入ってきた。

「…風邪、大丈夫ですか」
「まだ少し熱はあるけど、でも頭痛は治まったし大丈夫だ」

布団の隣に律儀に正座して俯く綾部の頭を撫でる。

「先輩が元気じゃないと、なんだか、調子狂います」

理不尽なことを言われているようなのに、なぜだろう、寂しさが滲み出てるようで思わず口元が緩む。

「そうだな、早く治して委員会も出ないとだし」
「みんな竹谷先輩のお見舞いに行くって聞かなくて、善法寺先輩が説得してました」

思わず後輩たちが騒ぐ姿が目に浮かんだ。
思わずぷっと吹き出すと、綾部が膝の上で拳を握った。

「どうした?」
「…すいません。今日はもう、失礼します」
「もう戻るのか…いや、まぁ移っても困るしな」
「いえ。そうではなくて、」

何か言いたげな顔をしている綾部。
いつもより少しだけ、目が泳いでいる。

「綾部?」
「…これ以上あなたの傍にいると、我慢できそうもないので」

数秒の、間。
たっぷり時間をかけてその意味を理解した俺は、熱であかい顔を更に火照らせた。

「なので、失礼します。ゆっくり休んでください」
「…っ、綾部」

入ってきたときと同じように、またからりと音を立てて障子を開けた綾部を引き留める。

「…から」
「え?」
「が…我慢しなくて、いい、から」

自らこんな台詞を言うことなんて滅多になくて、情けないことに緊張で声がか細く震えてしまった。
恥ずかしくて顔を伏せたままの俺に、障子を閉めた綾部が近づく。

「我慢しなくて、いいんですか」
「いい、から。…俺も同じ気持ち、だから」

きゅっと口を結ぶと、綾部がふわりと微笑んだ。

「おやまぁ…どうしましょうか」

そう言ってすぐに熱い俺の体を抱き締めた。

「先輩、…だいすき、ですよ」
「…俺も」

重なった綾部の唇の冷たさに少しだけ心地よさを感じて、そっと目を閉じた。


   唇から伝染する

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あきゅろす。
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