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陽炎さん
自分が気付かぬ内に、しかも随分前に、恋をしていたのかもしれない。
いつの間にか愛と言う、形のない不確かなモノを信じるようになっていた。

それを好いた相手に言うには、遠回しなんて高度な技術は持っていなかったし、自分には必要なかった。
ただ純粋に想いのままを言うだけ。



先輩から突然言われた告白。直球なそれにどう答えるか、いまだに答えが出ない。別にこの時代では衆道が当たり前のように行われているし、自分も偏見などなかった。

だだ、生娘かと言われても可笑しくないほど、自分には親愛と情愛の区別がつかなかった。
それでも先輩のことは尊敬している。



「それで、返事はどうすんだよ」

最近は専ら、同じ組の鉢屋三郎と不破雷蔵に相談している。自分だけではどうしようもないのだ。

「それに困っているんだよ〜」
「いっそのこと、先輩は好みじゃありませんって答えてみたらどうだ?」
「無理無理無理!細かいことを気にしない先輩でも不快にさせるって!」

鉢屋の容赦ない提案に、首を振る。そんなこと、口に出すだけでも恐ろしい。
それじゃあと不破が言い出し、一問一答が始まった。

「取り敢えず、七松先輩のことはどう思っているの?」
「尊敬してる」
「次、先輩に言われて嫌だった?気持ち悪いとか」
「そんなことない。なんで俺なのかって疑問に思ったけど」

がっしりした体つき、筋肉だってしっかり付いている。決して色気だとか艶がある訳ではない。それなのに、なぜ七松は自分を選んだのか知りたかった。

「だったら本人に聞いてこい。それが一番早いし、簡単だ」
「えぇ?!」

ほら行け、と長屋を追い出された竹谷は仕方なく六年生の長屋を目指す。

「すみませーん、七松先輩いらっしゃいますかー?」
中に向かって声を発しても返事がない。いないのか、と障子を開ければ気持ち良さそうに眠る七松がいた。そう言えば六年生は一ヶ月の間、合同実習であった。余程きつい実習だったのだろう。でなければプロに最も近い六年生が物音に気付かないはずがない。

室内に入った竹谷は障子を閉め、七松の顔の横に座る。

よく見れば髪に渇いた土が付着していた。それに構わず髪を撫でる。

「なんで俺なんですか…女のように柔らかい体でも、可愛いげがある訳でもないのに」

卑怯なのかな、と思う。だが、本人を目の前に聞けるはずもなかった。

「知りたいか?」
「ーっ?」

いつの間にか起きていた七松がニヤリと笑う。

「知りたいか?私がお前を好きな理由を」

再度尋ねられた竹谷は頷く。それを尋ねに来たのだから。

「竹谷が欲しいのははっきりとした理由だろう?」
「はい」
「だがな、お前に答えられる理由なんてないんだ」
「はい…?」

七松の言葉に唖然となる。理由がないとはどういうことなのか…

「お前は好いたことに理由を付けるのか?あってもぼんやりとしたものだろう。それに、好感がどこかで恋愛に発展することだってあるんじゃないか?」
「そういうものですか…?」
「少なくとも私はそうだ。それより、そろそろ私に返事を返して欲しいのだが…」

まだ自分の中でも渦巻いているにも関わらず、返事なんて出来る訳なかった。
七松が自分に向けている感情は『情愛』で、果たして自分が七松に対してその感情を持っているとは思えない。しかし敬愛していることは確かである。

「竹谷、」
「え?ふ…」

俯いて考えていると、七松に呼ばれた。無防備に顔を起こした竹谷はそのまま口付けられる。返事に困っているのに加え、接吻を与えられた竹谷の頭の中は破裂寸前だ。混乱している頭の片隅では、このままでもいいかなと囁く。

「ふぁ…っ」
「私に接吻された感想は?」
「…もっとしていたいな、って思いました…っうわ?!」

赤面しながら素直に白状すると、勢いよく抱き締められる。

「竹谷、お前…無防備すぎる!」
「ん、ふ、ぁ」

ちらりと見えた目の前の七松は、いつもの豪快な笑みではなく、両目を細め、うっすらとした笑みを浮かべていた。それはまるで獣が獲物を見付けた時のよう。

舌を絡め、深く深く口付ける。本気で反抗すればやめてくれるかもしれないが、竹谷はそれをしなかった。だが、曖昧になっている返事をしたかった。

「ん、せんぱ…!やめ、ぁ、待って」
「嫌だ」

けれど七松の口付けはそれすら飲み込まれてしまう。




*****
お粗末様でした!
反論じゃなくね…?という突っ込みは、なしの方向で!
男前小平太を目指しましたが…


主催様。この度は楽しい企画に参加させて頂き、有難うございました!

ではまた。
桜の舞い散る頃に/陽炎

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