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戻れないのなら時を止めて
「ろくでなしにしか頼めねェ―…死ぬな」

そう言ったのはヅラでも辰馬でもなく俺だった。そしてその矛先は紛れもなく高杉。出任せなどではない。あの時は。本当に。―本心で“死なないでほしい”と願っていた。

刀が空気を切り裂く音で現実に戻される。無言のまま口角を持ち上げる高杉の姿はさながら獣の様だった。この獣を殺そうとしているのもヅラでも辰馬でもなく俺で。死ぬなと言った俺がこの手で、自らの手で息の根を止めようとしている。『仲間を守る為に。』そんな事を言ったら笑われるのかもしれない。けれども偽りではなかった。

「なあ、もう止めねぇか」
「今更怖じ気づいたのかよ?てめぇらしくねェなあ」
「ちげーよ」
「ああ…てめぇも桂みたく俺をまだ仲間だと思ってんのか」

その冷たい声音に背筋がぞくりとする。その狂気に満ちた目に哀しみを覚える。俺が無言なのを肯定と見たのか高杉は僅かに目を俺から逸らした。

「くく、守る背中は減ったんじゃねぇのか」
「ああ…減ったな。俺が守らなくてもてめぇにゃ鬼兵隊が居んだろ」

―彼奴らが守ってるのは高杉の背中だけじゃない。心臓だって、残った右目だってきっと。
今守りたいのはこいつじゃない。この国であり、今の仲間だ。しかし守る為にこの高杉という男を壊せるのかと問われたら何も言えないのだろう。高杉を守る者は居る。では誰がこいつを悲しみから解放する?守る事も壊す事も出来ない俺、ではないのか?

「高杉、俺は…。てめぇが思っている程甘くねぇよ、けどてめぇを殺す事なんぞ出来ねえ」

そう言いつつ勢いをつけて高杉との距離を縮める。これが心の距離だったらどんなに良かっただろう、なんて何処かで考えながら。
木刀で力任せに刀を弾けば、この場には似合わない音をたて宙を舞った。そしてすぐに地面へと突き刺さる。高杉が小さく舌打ちするのが聞こえた。

「高杉、」
「…」

武器が手を離れたと同時に木刀を置き、高杉を思いきり抱き締める。あの頃と変わらない筈の匂いに血と硝煙の匂いが混ざっているのがひどく残念だ。その匂いが『俺の知る高杉ではない』と告げているようで無意識に腕に力がこもる。

「もう終わりにしようや…」
「…てめぇは……変わんねェな…」

『だが俺は変わったんだぜ』と小さく聞こえた気がした。あの頃の姿は鮮明に脳裏に焼き付いているのに。今の姿は視界が歪んでるせいかぼんやりとしか見えない。

「…ぶった斬らねえのかよ?」
「斬れる訳ねぇだろ…だってまだ、」

―まだ。ずっと。

「好きなんだぜ、お前の事よ」

情けないと笑うだろうか。気持ち悪いと罵るだろうか。そんな事はどうでも良かった。ただ救いたかった。高杉が好きだと言った所で揺らがないのは知っているし短刀などの武器を隠し持っている可能性もあった。離れなければいけない筈なのに。腕が命令を聞かなくなったように、強力な磁石に引き寄せられた鉄のように動かなかった。抱き締めるのが最善?好きだというのが最良?そんなわけあるはずないのに。

「俺が思ってた以上に甘ぇよ、銀時」

どうしても捨てきれなかったんだ。俺のせいじゃない。ああ、今此処で捨てられれば斬れるのだろうな。俺にはそんな術備わってないけれど。
このまま時が狂い出して進む事を止めてしまえばいい。そんな事を願った。
もう戻れないのならば、いっそ。



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実は少し前まで私もコミック派だったのですが、高銀がセンターカラーだと聞いて購入してしまったのです。その号がとてもいい展開で終わっていた為に次号も買わざるをえませんでした。本誌の高銀はそろそろ幸せになるべきだと思います。気が向いたら高杉視点のものも書きたいです。お粗末様でした。

  

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