まだ雨は止まない
「うえ…今日傘持ってきてねぇんだけど…」
サァア、と音をたてながら天から滴る雫はただ不快だった。今朝の結野アナの天気予報では降水確率は50%。朝は快晴と呼ぶのが相応しいほど晴れていたから傘を置いてきたのに昼頃から曇り始め、午後には雨が落ちていた。
「どうしよ…早くしねぇとドラマの再放送始まっちゃうんだよなあ……」
どんなに睨んでも雨が止む事は無い。どんどん勢いを増していく。明日は休日だし雨に濡れて風邪をひいても問題はないだろう。そう考えた時だった。
「何してんだよ」
聞きなれた声に振り向けばそこには高杉の少し驚いたような、それでいて何処か不機嫌なような顔。一瞬、こいつも傘を忘れたのかと思ったが手にはビニール傘が握られていた。
「…別に、今帰るとこだっただけだし」
「教室真っ先に飛び出してったくせにか」
「うっせ」
「おら、行くぞ」
ばさりと傘を広げて歩き出す高杉。一瞬訳が分からなかった。けど「早くしろ」と言われたから入れてくれるという事だろう。俺は走って高杉の背を追った。まだ雨はやまない。
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「高杉、俺の肩ちょっと濡れてんだけど…もっとこっちに寄せてくんね?」
「うるせぇ、忘れたのはてめぇだろ。文句言うな」
「ちげー、忘れたんじゃねえよ!結野アナが降水確率50%だって言ってたから…!」
傘が小さいからか、それとも男二人分だからなのか。かなり近くに居ないと濡れてしまう。今も結構な距離なのに俺の肩は雨粒に濡れていた。
男と男が相合い傘してるなんて姿を同級生に見られたら終わりなのだが、どうやら皆傘を持ってきていたようで早く帰ったらしく大通りを通っても誰とも会わずに済んだ。幸いに、とでも言っておこう。
横目でちらりと高杉を見れば普段より僅かに歩くペースが遅い様な気がした。いつもなら、2歩程差があり俺は高杉より本当に少しだけゆっくり歩く。もしかして、合わせてくれているのか。そう思うとなんだか嬉しくて、愛しくて、少しでも長くこの時間が続けばいいと思った。雨音に混じって自分の鼓動がやけに煩いのが聞こえる。
雨は大分強くなってきていた。
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角を曲がってすぐに古いアパートが見える。ああもう終わりなんだと思った。なんで俺こんな所に住んでるんだろうなあ、と少し後悔する。学校から然程遠くない為、直ぐに帰宅できバイトを多く入れる事が出来るからここにしたのだけれど。
鞄から鍵を出して高杉の傘を抜ける。大きく息を吸った。ちゃんと言わねえと。
「ぎんと」
「高杉!」
高杉が名を呼び掛けたのを遮る。不機嫌そうに眉をよせて「なんだよ」と低く言われた。高杉は遮られる事を嫌う。
「その………えっ、と………あ…」
「んだよ、早く言え」
きっとその低い声は苛立ちからなのだろう。曖昧なまま自身の言葉を遮られたから。まだ雨も止まないから。
「……………………あ、りがと…」
目を合わせられず、高杉が今どんな表情をしているのか全く分からなかった。こんな時に限って高杉は何も言ってくれない。
その沈黙に居辛くなって、足早にアパートの壊れかけた階段をのぼり、自分の部屋の鍵を開け中に入った。ばたんとやけに大きく扉が鳴る。全身が熱い。心臓が煩い。
意味もなく鍵を掛けて靴を脱いだ。ああ、きっと明日は高杉に散々からかわれる。どうして「ありがとう」にしたのか。普段の調子で「さんきゅー」とも言えただろうに。
まだまだ雨は止む気配を見せず降っていた。降らなければ良かったのに。
「たまには雨ってのも悪くねェな」
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相合い傘も、面と向かって礼を言えない銀時もずっと書きたかったものでした。書き上げられて満足してます。
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