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共に生きたい
あまりにも静かで、綺麗な夜だった。蒼白い月光の中に風の音だけが時折漂う。普段は眩しすぎるこの街の光も嘘のように思えた。―この静寂は戦場での夜に似ている。10年以上経った今も、忘れることなど出来なかった。静けさも、刀の感触も、狂うほどの圧迫感も、“仲間”の大切さも、失うことへの恐怖も。そして誰かを愛する事も全部。



数え切れないほどの仲間を手にした。そいつらと戦場で何度も笑い。そして失った。かと思えば、再び手にする。それの繰り返し。誰かを失う度に“失わないもの”に強く依存した。愚かだったとは思うが、きっと今だって同じなんだろう。
否、今は自ら依存した者を自ら手離す、なんて真似はしない。意味も無く右手を開閉する。ずっと握りしめて居ればよかったのに、どうして。

「…高杉」

名を呼んでみて、未だ愛しく思えたことに驚く。以前ぶった斬る、なんて勢いで叫んだが、斬れるわけがなかった。そんなこと、自分勝手過ぎる。与えられた愛を受け取っておきながら、高杉の大切な人を奪った。左目の鋭い光も消して。終いには、『俺のために』と伸ばされた手さえも振り払い、背を向け、逃げた。それだけ傷つけたのに斬るなんて、俺には出来そうもない。



そんな俺が出来るのは、俺が背負わせてしまった悲しみや苦しみから解放することくらいだ。高杉の事だから、この世界の崩壊を「解放」と呼ぶだろう。でも、崩壊すればここにある数え切れないほどの大切なものを失うことになる。
また誰かを傷つけるのも、もう何かを失うのも御免だ。だから。


「俺は」


高杉と以前のように笑い、喧嘩し、共に生きたい。腕を解いたくせに、再び腕を伸ばすなんてきっと呆れられるだろう。それでも、構わない。そうすることで高杉に負わせた傷が癒えるのなら。何度でも高杉に向かって言う。叫ぶ。
それを『正しい』と呼んでいいのかは分からない。ただ、それしか知らないのだ。

「…今更生きたい、なんてそれこそ身勝手か」

自嘲気味に言ってみたが、全てを冷やすような風が通っただけで、答えも返事もそこにはない。ただ、耳を掠めた風に高杉の嘲笑を聞いたような気がした。




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シリアス美味しいです

  

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