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心地良いもの
「知ってるか?猫が尻尾を振る時は機嫌が悪い時らしいぞ」

何時の日か、野良猫が迷い込んできた時に桂がそんな事を言っていたような気がする。動物の生態には興味は無かったが、それが髪の毛と同じ銀色の猫耳を生やした男にも通用するのかには興味があった。軽く期待を込めながら襖に手を掛ける。聴力は鋭敏らしく、大抵襖を開ける音で気づかれてしまうのだが。

―今日は何かに集中しているのか、それとも俺が来るまでに何かあったのかは知らないが気づいていないようだった。
此方に背を向けて、外を眺めている。視線を背中から尻尾へと移せば銀色の細くしなやかなそれが、畳を擦りながら左右にぱたぱたと揺れていた。

「……早く帰ってこいっつーの」

微かな声。ひどく弱々しいが聞き逃す事は無かった。尻尾がさらに大きく揺れる。相当不機嫌らしい。
衝動に駆られ、足早に距離を縮める。猫耳がぴくりと動き、緋色の瞳と目が合った時には既に抱きしめていた。

「な……ッ」
「銀時、」
「ちょ、やめ、高す」

首筋に当たる髪がくすぐったいと言う様に身を捩る銀時。その度に甘い香りが辺りに漂う。

「っ、急に何すんだよ!離せバカ杉!!」
「素直じゃねぇなァ…ずっとこうされたかったくせによ」
「んな訳ねーよ!!」

そう言って目をそらす銀時だが、その頬は紅く染まっていた。本当に素直じゃない。…勿論そんな所も含めて可愛いのだけれど。
腕に力をこめ、小さく名を呼べば伺う様に揺れる瞳が俺を捉えた。

「なに、」
「…ただいま」

紅い頬にキスでもしてやろうかと考えたが、それを止めて言葉を待つ。そして何度か視線を彷徨わせた後にぼそりと一言。
良く出来た、と言わんばかりに頭を撫でてやれば甘えなのかくたりと身を委ねてきた。不機嫌な時に揺れるそれはもう揺れていない。

こんな当たり前、で済む様な言葉だけで満足してしまう俺も安いものだと思う。しかし、そんな安い俺が帰っただけで機嫌を直すこの男も十分に安かった。お互い様、とでも言ったところだろうか。

「………おかえり」

それがひどく心地良く思える。その所為か、こいつもそう思っていればいいなんて考えが柄にもなく脳裏を掠めた。

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実は2月22日に上げようと思っていたものです。間に合わなかった…。
そしてオチが迷子…すみません。後日修正するかもです。


  

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