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ただ鬼は笑う
ただ鬼は笑う。何故鬼は笑う?愛しい者が居るからと笑う。
ただ鬼は泣く。何故鬼は泣く?愛しい者が居るからと泣く。
何故鬼は笑いながら愛し、愛しながら泣く?



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肌をつんざくような、冷たい空気が辺りに満ちていた。少し遠くから聞こえる笑い声が、一層寒く感じさせているのかもしれない。ギシリ、と床がまるでそちらへ気を引くように、鳴った。「どうせ松陽だろう」と思いつつ音の方へ目を向ける銀時。その目に映ったのは松陽ではなかった。薄紅に頬を染めつつも不機嫌そうに声を漏らす。

「…高杉、……なんだよ」
「……お前探してた」
「言っとくけどおれ、行かねぇからな」

今、寺子屋では通う子供たちが節分を楽しんでいる最中だった。それに参加しろと言われるに違いないと思った銀時はギッと睨み付ける。

「…なんで、行かねぇんだよ」

高杉のその声には明らかに不機嫌が含まれていた。しかしその表情には不満など見えない。それが銀時にはどこか不気味だったのだろう。高杉に向けていた目をぎこちなく逸らしながら小さく呟いた。

「…………だっておれ、鬼って言われたから…」

もう松陽と出逢って大分経つのに、他の生徒の警戒心は解けぬまま。そのせいで、出逢う前の『鬼』と呼ばれた記憶が銀時の脳裏から離れずにいた。

いつの間にか、高杉は銀時の隣に座っている。指先に何かが触れた感触に驚いた銀時は再び視線を高杉へと戻した。どこか大人びた表情。引き込まれるような深い緑の瞳に捕らえられた銀時はただ、動けずにいた。触れていた指がゆっくりと絡みあう。

「そんなこと、俺は言ってないだろ」
「…そ、だけど、でも」
「だから、鬼じゃねぇの」

冷えた銀時の指に高杉の体温が溶けていくように。強引で抗う術は無くて。けれどもどこか優しいそれは、銀時の恐怖をも溶かしていった。高杉が愛おしそうに笑う。何かが切れた銀時の紅い瞳が僅かに濡れた。冷たさを増した風が、瞳を濡らしたものを一瞬にして拐っていった。

「第一、お前が鬼なら俺だって、」

その声をかき消しながら。



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ただ鬼は笑う。何故鬼は笑う?愛しい者が居るからと笑う。
ただ鬼は泣く。何故鬼は泣く?愛しい者が居るからと泣く。
何故鬼は笑いながら愛し、愛しながら泣く?

それは、ただその者の傍に在ることが幸せだから。




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遅刻しましたが節分

  

あきゅろす。
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