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三日月の嘲笑
三日月が淡く冷たく照らし出す、そんな夜。かぶき町は昼間よりも活気に満ちていた。鮮やかな街灯が足元を照らす。それでも霞まない月明かりは、どれ程冷たい色をしているのだろう。そんな思考の所為か、自然と足は止まり夜空を仰いでいた。月の白さに、光の冷たさに目を奪われていれば腕に何かが降れ、現実へと戻される。途端に腕を引かれ街灯が視界から消えた。

「…!!」

背を壁に押し当てられ、木刀を握ろうと伸ばした右手も呆気なく掴まれる。漂うその香りは忘れたことなどない、あいつのもの。瞳に映ったのは紛れもなく。
街灯の所為か、顔に深い影が出来てきた。それさえもいやらしく見えるこいつは、どれだけの色を放っているのだろう。

「何しに来たんだよ……高杉」
「理由なんざ、必要ねェだろう?」

そう言って高杉は口付けてくる。右手はまだ捕らわれたままで。左手で高杉の肩を押すも、上手く力が入らない。左手が利き手じゃないからなのか。口づけの所為なのか。舌が絡み合い、呼吸も呑み込まれる。

「ん、んん……は、ん…!」

一瞬、離れたかと思えばまたすぐに触れあう。視界の端に見える灯りは、先刻まであの中に居たというのにどこか現実味を帯びていなかった。漸く唇が離れた時には、僅かに意識が霞んでいて。肺を満たした酸素によって我にかえる。

「…は……お前なぁ…」

左手で口元を濡らす唾液を拭えば、再び高杉が喉を鳴らした。それと同時に首筋に感じる小さな痛み。触れる唇がゆっくりと上昇してきて、耳へと辿り着く。そして、また。耳を撫でる吐息に意図せず声が漏れる。

「てめ、んっ…」

高杉の唇から逃げるように空を見上げれば、そこには月だけが居た。建物と建物の狭間の、小さく遠い空でただ月だけが冷たく俺達を見ている。
奴に台詞をつけるのなら、『馬鹿らしい』といったところか。三日月のその形は嘲笑っているのかと思うほど歪んで見える。

「ああ…強いて言うならてめェに会いたかっただけだ」

思い出したように高杉はそう呟いた。そして自嘲気味に口角をあげる。

「…だったら、万事屋に来ればいい話だろうが。銀さん超びっくりしたんだからな。」
「たまたまてめェを見かけたんでな」

俺達は馬鹿で阿呆で滑稽なのだ。自らの欲に従うしか術はなく、互いの色に溺れ、"好きだから"といつか己の手で下す終焉の哀しみを増加させているだけ。
今ここで、俺が高杉を。高杉が俺を殺せたのなら。これ以上に終焉の哀しみは増えるこのはないのだ。

「くくく…」

高杉の笑い声以外の何物でもない筈のそれが、狭い空にある三日月の嘲笑のように錯覚する。月光の冷たさの所為か、熱を孕んでいた紅の華が冷たくなった気がした。


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路地裏いちゃらぶ高銀を書いていた筈が気が付いたら別物になっていました。
このあと朝方までいちゃいちゃした結果、朝帰りとなってしまい新八と神楽に蔑んだ目で見られる銀時…


  

あきゅろす。
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