「オレは野球ができればいーや、ゲンミツに!」






見慣れた田島の、得意な笑顔。

「野球ができりゃあいいって、お前さ、プロとか興味ないわけ?」
「べつに?」


淡白な答えに少し耳を疑った。こんだけ野球のセンスがありゃあ、絶対コイツはプロとか行くんだろうなって、どこかで勝手に考えてたから。

「つーかまだオレたち高1だぜ?ショーライのことなんか全然わっかんねーもん」
目の前の笑顔が消えると、くりっとした丸い目がオレを見る。

「え、あ…あぁ…まぁ、そりゃそーだけど…さ、」

もっともな事を言われて思わず言葉が行き詰まった。勝手にコイツの将来を決め付けてた自分が恥かしい。決め付けて、オレたちはいつかこうやって一緒にいる事もなくなって、変に寂しい気分になってたとか、なんか恥かしい。
つーかどんだけだ。

「花井はプロとか考えてんの?」
「へ?オレ?」
「そーだよ花井!」
「い、いや…さすがにプロまでは…ねーよ」
「ふ〜ん」
「つーかオレがプロいけるとか思ってんのかぁ?」
「いこうと思えばいけんじゃん、花井ならさ」
「なっ…」

少しも笑わないコイツの真剣な目に、オレは結構ビビッたりした。

「花井がプロ行くんだったらオレも行く!」
「アホ、そんなんでコロコロ将来決めんなっつの」

ぐりぐりと阿部が三橋にやるみたいに、田島の頭を両手のゲンコツで挟んでやる。

「あんでだよ〜、だって花井と一緒に野球してぇもん!」
「したいって、必ずしもオレとお前が同じチームで野球できるって限んねぇだろ?違うチームだったら敵なわけだし、…たしかに一緒に野球してる事にはなるけど」
ぐりぐりする手を弛めると、

「そしたらオレは花井の球を思いっきし打っちゃうもんねー!」
「ピッチャーオレかよ!」

そんな無邪気な発言にツッコミを入れて手を離した。


「…つーか、やっぱプロとか将来どうとか、まだピンとこねぇよなぁ」
今ここにいるコイツから離れる先の事なんか、まだ考えたくない。まだまだ田島とは一緒にいたいし、野球だって今みたいに笑ってたり怒ったりして一緒に楽しみたい。
そんな事考えてたらたまらなくなって思わず田島の体を抱きしめた。

「なんだよ、言い出したの花井のほうじゃん」
「うん」

言いながらも田島はしっかりとオレの行動を受け止めてくれる。コイツの両手がオレの体を支えてくれた。
つんつんはねてる短い髪はいつも頬に当たって少しくすぐったい。こういう感覚もまだ、薄れる事なく続いてくれればいいなって思う。

「オレも、今んとこ野球ができりゃあそれでいーわ」

少し体を離すと、両手で小さい顔を上に向かせて軽く口付けた。




先のことより、今は目の前のことだけを。





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