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◆磯メグ
原題:鶴の恩返し

「ねえ、大丈夫…?」

縁側に居た彼が咳き込む声が聞こえて、私は洗濯物を干す手を止めて駆け寄った。
少し前から彼は度々咳き込むようになり、その間隔は日が経つに連れて狭くなっている。彼は体が頑丈なのが取り柄だからと言うが、それでも不安は拭えない。
そんな不安が顔に出ていたのか、呼吸を落ち着かせた彼が大丈夫だよと言って、その手を私の頬に伸ばしてきた。

「少し風邪気味なだけだよ、心配かけて御免」

「無理、しないでね…?」

「あぁ、分かってる」

微笑む彼のその優しい声に、頬に触れた暖かい手に私は目を閉じる。
自分より少し大きなこの手が、この温もりが、彼のこの優しさが私は好きだった。

着物も縫い繕ったものしかないと、全然お洒落をさせてやれないと、彼は申し訳なさそうに言っていた。
けれど、私はこの生活になんの不満もない。
確かに貧しい生活だけれど、ただ彼と二人で共に過ごせることが…何気無い日常が、私の幸せだった。


そんな私の幸せが崩れたのは、暫く経った夏の日の午後。



…彼が、血を吐いて倒れてしまった。



BGM:やましずく様【四季折の羽】

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