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短編集
キミは、マスカット前編(手塚国光)
「ファーストキス???」

こてり、と小首を傾げる彼女。
彼女の名前は、桜井奏汰。
氷帝学園の三年で、二つ名を持つ。
その名は、『氷帝一の奇人・変人・本の虫』
そんな彼女は、従兄である、青春学園三年、テニス部部長の手塚国光の手伝いで、この合同合宿に参加していた。
そんな彼女に声を掛けたのは、青学一年の赤月巴、である。

「今、雑誌を見ていたんですけど…」

休憩中に見ていた雑誌に初めてのキスは、レモンの味がすると記載されているが、それは本当なのかどうなのか、と話していたと云う。

「知ってましたか?」
「…それってさ、ファーストキスをかました時に感じる心理状態を味覚に現すとレモンが妥当なんだろう?」
「かます、とか云うな(--;)」

呆れた口調で、奏汰に突っ込むのは、氷帝の右岡陽香。

「でも、ボクはマスカットだったよ?」
「「「「「へ?」」」」」
「ファーストキス」

女性陣はフルフル、と肩を震わせると、

「ファーストキス済んでるんですか?!」
「初耳よ!それ!」

怒濤のマシンガントークに、奏汰は苦笑いを隠せないでいた。

「じ、じゃあ、セカンドキス」
「セカンド?」
「2回目のキス」
「2回目も3回目もマスカット」
「………適当に云ってません?」

じと、とした眼差しで奏汰を見る女子生徒達。

「ホントだってば。あー、そんな事云うから、マスカットが食べたくなったよ」
「今、季節じゃないものね」
「……今もマスカット味なのかな?」
「「「「「はい?」」」」」
「―――…試してくる」
「ま、待ちなさい!!奏汰!!」

マスカットが食べたくなった奏汰は、ファーストキスを交わした相手の所に向かってしまった。

「追いかけましょう」
「はいっ」

彼女達は、奏汰のファーストキスの相手が気になる様で。
こっそり、と気付かれない様に奏汰の後を追いかけた。




「あ!居た」

ニコニコ、と笑って探して居た、目当ての人物に近付く。
その人物は、休憩室の陽当たりの良い場所で読書を楽しんでいた。

「ハーチミツくん」
「ん?」
「こっち向いて?」
「?」

ふ、と顔を上げた瞬間、唇に当たる柔らかな感触。
国光の思考は、一瞬だけ停止。
そして、キスシーンを見てしまった周囲は、持っていた物を落としたり、飲んでいた物を吹き出したり、と、動揺していた。
すると、国光から勢い良く離れた奏汰は、何かにショックを受けた様で、その場にうずくまる。

「お前は、俺に何を――…」

停止した思考が動き出したのか、国光は奏汰を睨む。

「ハチミツくん…キミは……」

奏汰は、真剣な表情で、

「キミは、マスカットじゃなかったのか!!!」
「何の話だ!!!」

奏汰と国光の大声で、フリーズしていた周囲はザワザワ、と動き始めた。

「あのね、マスカットが食べたくなったんだよ」
「……」
「キミとキスした時、マスカット味だったんだもん」

国光とのキスは、マスカット味だったから、キスしたらマスカットを食べた気分になる、と思い込んだ奏汰が仕掛けたキスである事が判った国光。

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