短編集
一目惚れなんです(エース)
「おかしゃん、おかしゃん」
シャナメルが子供達の繕い物をしている時、アンジュが側にやって来た。
『どうしたの?』
「あのね、あのね」
アンジュの言葉に耳を傾けていたシャナメル。
だが、次第に顔が真っ赤に染まる。
『なれそめって……そんな言葉、誰から聞いたの?』
「サッチおじさん」
『……そう』
後でエースくんに頼んで、とっちめて貰う、なんて思われているとは、露知らず。
サッチの爽やかな笑顔が脳裏を過ぎった。
「ねー、ねー、おかしゃんってば」
ニコニコ、と笑うアンジュに、教えないなんて云えないシャナメルは、困惑気味に笑った。
『おとしゃんに内緒に出来る?』
「うんッ!!」
ぱあっ、と明るく笑うアンジュに、苦笑いを浮かべ、シャナメルはこう告げた。
◇◆◇◆◇◆◇
それから、数時間後の休憩室。
デレッデレ、の表情でシャナメルを見つめているエース。
そんなエースを遠巻きから冷ややかな眼差しを向けている船員達とマルコ達。
「何か悪い物でも食ったか?」
「アンジュと遊んでからああなんだよ」
「アンジュに、大きくなったらおとしゃんと結婚する、とか云われたか?」
と、囁かれているとはつゆ知らず。
エースはその表情を崩す事なく、食事の支度をしているシャナメルを見つめていた。
『ん?』
視線に気が付いたシャナメルは、エースの側まで来ると、
『何か良い事でもあったの?』
そう尋ねた。
が、エースは「幸せを噛み締めてるだけだ」と云うだけで、シャナメルの問いに答えようとはしなかった。
[まさか、メルも俺に一目惚れ、なんてなぁ……]
アンジュとシャナメルが内緒話をしていたのを見たエース。
それが気になり、アンジュを擽る、と云う名のお仕置きをした所、白状したのだ。
「メール、膝枕」
『…部屋でね』
シャナメルは、食事の支度を終わらせ、エースと共に、部屋へと戻って行った。
「何だったんだ(ーー;)」
それを見送る面々は、溜息と困惑の表情を浮かべていた。
すると、クイクイ、と服の裾を引く感触。
視線を降ろせば、アンジュがじぃ、とマルコを見つめている。
「アンジュ、どうしたよぃ」
「先生、あのね」
アンジュは、判らない事があると、マルコを先生、と呼ぶ。
どうやら、判らない事柄があったようだ。
「は?」
「一目惚れってなあに???」
「「「「………」」」」
どう答えたら良いのだろうか。
下手に答えると、ニューゲートに殺される。
「も…」
「も?」
「もう少し、デカくなったら教えてやるよぃ」
「判った」
そう云うと、パタパタ、と休憩室を後にした。
「………どう説明すりゃ良いんだよぃ」
マルコの受難である。
頭を抱えるマルコを横目に、隊長達は各々、
「アンジュは、好奇心旺盛だ」
「好奇心、猫をも殺すってェの、教えねェとな……」
お互い顔を見つめ合い、盛大な溜息を吐いた。
――――――――
子供特有の好奇心
2019.06.30
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