Wonderful days テニスコートwith修羅場 エントランスに向かう途中で、バタバタ、と、走り込んで来るのは、景吾と同じ部活の男子生徒、向日岳人。 「廊下を走るんじゃねェ」 「んな事より、早くテニスコートに来いよ!!」 「アーン?」 「一人の女子生徒が、テニスコートで暴れてんだ!!」 「……!」 国光は静かに、額に手を置いた。 女子生徒、と云われただけなのに、騒ぎの元が奏汰だ、と判ってしまうのが哀しい。 「テニスコートは何処だ?」 「こっちだ」 岳人に導かれるがまま、2人はテニスコートに向かった。 「ゲームセット!!」 テニスコートに響く、終了を告げる声。 テニスコートにヘタり込む少女と少年を、冷たい眼差しで見下ろす奏汰。 「デカい口を叩く割には、大した事無いね。ま、準レギュラーだし。弱くても仕方ないか…」 冷たく笑いながら、云い放つ。 「何事だ!!」 景吾の怒声に、周囲は、水を打ったかのように静まりかえる。 しかし、奏汰だけは何処か違った。 「単なる遊びさ」 奏汰は冷たい眼差しのまま、景吾と国光を睨んだ。 「遊び…?」 ちらり、と、ボードを見たら、6−0と指し示している。 そして、ヘタっている部員は一組だけではない。 遊び、と、云うには、程遠い。 しかも、殆どが準レギュラーだった。 「あらぁ、跡部君にぃ…手塚君?」 間延びした声に振り返れば。 そこには、景吾のクラスメイトでもあり、奏汰の親友でもある、右岡陽香の姿があった。 「右岡……居たなら止めろ」 「無理よぉ。"氷の女王"は、あたしじゃ止まらないし、そもそも、あの子達が悪いんだから、少しは痛い目にあった方が良いのよぅ」 クスクス、と笑うその笑みは、悪女ばりのアクドい笑みだった。 「お前な…(--;)」 「ま、手加減はしてるから、完全にキレた訳じゃないみたいだけどね」 手加減―――…そう云われて奏汰を見れば、ラケットを持つ手は、右だった。 「桜井は右利きじゃないのか?」 「奏汰は俺と同じ、左だ。手加減していたのは事実だろう」 国光はそれだけを云うと、スタスタ、と奏汰に向かって歩き出す。 「オイ、手塚!!」 「奏汰の事は手塚君に任せた方が良いわ」 陽香の言葉に、怪訝そうな表情を向ける。 「そう云う訳には――…」 「大丈夫よ。奏汰はね、手塚君に逆らわないから」 「逆らわない?」 景吾は、歩く国光の背中を見つめる。 「見てれば判るわよ」 陽香の言葉に、景吾はなりゆきを見守る事しか出来なかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |