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颯〜はやて〜
「滝の洞窟・発見編」

       颯〜はやて〜「滝の洞窟・発見編」

「今日はちょっと遠くまで行くぞ」
ヒノエに連れられ那智の森にやって来た。

「ヒノエ〜! 敦盛〜! こっち こっち〜!!」
仲間の子がふたり、ヒノエと敦盛の姿を発見して手招きしていた。
「あれ ふたり? あの兄弟は?」
一番上の子と下の子の姿が無かった。
「あんちゃんがいろいろ準備してから来るって」
「もう少し待ってみよう」

(…?)

「ん? どうしたの、敦盛」
敦盛の怪訝な表情に、仲間の子が尋ねてきた。
「…え…そ、その…あなたはあの者の兄弟ではないのに…なぜ…」

「最年長だからね、みんなそう呼んでるよ」
残りのふたりがやって来た。
「敦盛もあんちゃんの事“あんちゃん”って呼んでいいぞ」
弟が敦盛の背中をポンっと叩きながら言った。
「……え…そ、そんな……」
敦盛はモジモジしてヒノエにくっ付いた。

「あはははは〜! ホントに敦盛の方が年上なの〜?」
子供達にからかわれ、敦盛はパっとヒノエから離れた。
「あんまり からかうなよ」
ヒノエがその場を諌めてくれた。

               ☆

今日の遊び場は那智の滝だった。
「ジャ〜ンケ〜ン……ポン!!」
荷物持ちを決める為、まずジャンケンをした。
「…おれかぁ」
「しょうがないよ、負けちゃったんだし…」
荷物持ちは兄弟以外のふたりに決定した。

(………)

敦盛は勝利した自分の握られた手を見て考えていた。

(…何故ヒノエとの時はあまり勝てないのだ?)

「どうしたの? 敦盛。勝ったんだから、荷物持ちしなくてもいいんだよ」
兄が声をかけた。
「う、うん。今行くのだ」
トコトコ歩いていく敦盛を、ヒノエはニヤニヤ見ていた。

               ☆

「敦盛、疲れてない?」
さっきまでからかっていた子はまたいつもの優しい子にも戻っていた。
「う、うん…」
敦盛はどうしてさっき、からかってイジワルをしてきたのに、今度は優しいのだろう?
と、考えてしまった。
同年代との付き合い方に不慣れな敦盛に、その答えを見出す事は出来なかった。
「ここら辺で一休みしようか」
兄が休憩を提案した。

               ☆
「………ふう」
こんなに歩いたのは生まれて初めてだった。

大きめな石に腰掛けていると、
「はい、敦盛。のど渇いているだろ」
一歳上の子に水筒をもらった。
「あ、ありがとう」
敦盛は水筒を受け取り、のどの渇きを潤した。

「“飴菓子”舐めてると、疲れが吹き飛ぶよ」
同い年の子に“飴菓子”をもらった。
「うん」
もらった“飴菓子”を口に入れた。

だけど敦盛は知っていた。

持ってきてくれる子は違うが、全部あんちゃんが指示していた事を…

(……ほんとうにみんなのまとめ役なのだな…)

敦盛はふと、自分の兄を思い出した。
経正も一番年上で、重衡達の面倒をよく見ていたからだ。
(……あにうえ…どうしているのかな)
急に経正に会いたくなってしまった。

「…? どうかしたの? 敦盛」
兄が心配して話しかけてきた。
「………大丈夫です、あにうえ…」
「…へ?」

みんなポカ〜ンとした。

(!!!!!)

敦盛はすぐ間違いに気付き、真っ赤になった。
経正の事を考えていて、うっかり口が滑ってしまった。

「あ、あわわわ…そ、そ、その……あの…」
敦盛はオタオタ慌てた。

「なになに、敦盛〜? 自分の兄貴と間違っちゃった〜?」
弟はまたからかった。悪気は無かったのだが、敦盛には重大なミスだった。

「こら!間違いは誰にでもあるだろ」
兄が弟を小突いた。
「いって〜! もう! そんなに兄貴が恋しいなら敦盛にあげるよ!」

「えっ!…えっ?……え………ひ〜〜〜ん!!」
いたたまれなくなった敦盛は、思わず駆け出した。

「あっ!?バカ!いきなり走るとあぶな…い!??」
ヒノエが言い終わる前に、敦盛の身体はスっと消えた…

               ☆

「ああああ…敦盛っ!?」
みんなで敦盛が消えた場所に行った。

………そこは崖だった。

「あ、敦盛っ!!返事しろ!!」
「……ヒノエ〜…」

敦盛の声がした。みんな必死に探した。

「あっ!!!あそこにいた!!」
二番目の年長さんが指差した。敦盛は木の間にいた。
かろうじて水干が引っかかっている程度で、危険な事には違いなかった。

急いで敦盛救出作戦が練られた。

兄が用意してきた紐を、崖の側の木にクルクル巻き、もう片方はヒノエに巻きつけた。
五人の中で一番体重が軽いという事で、敦盛の救出はヒノエの役目になった。

「じゃあ、行ってくる」
ヒノエは慎重に崖を下りていった。

「! ヒノエ〜!!」
ヒノエに気付き、敦盛が手足をバタつかせた。
「バカ!!暴れんな!」
ヒノエに怒られ、敦盛はシュンとした。

「今助けてるから、ジっとしてろよ〜!」
上から励ましの声が聞こえた。
敦盛はホっとして“もう大丈夫だ”と思った。
「敦盛〜! ぜったい、下見ちゃダメだぞ〜!!」
言われるがまま敦盛は下を見た。

(!!!…〜…)

敦盛は気が遠くなった。

「!! 敦盛っ! 気絶すんなよ!」
ヒノエの声にハっと我に帰り、わんわん泣き出した。

「なんで余計な事言ったんだよ!」
「だって注意しようと思って…」
上は上でもめていた。

そうこうしているうちに、ヒノエは敦盛のいるところまで、無事下りる事が出来た。
「泣くなって!オレが来たからもう大丈夫だ」
敦盛を抱き寄せ、上にいる子達に引き上げるよう言った。

「よいしょ、よいしょ…」
力を合わせてふたりを引き上げていた。

―― チリチリ…

妙な音がかすかに鳴っていた事に、誰も気付いていなかった…

―― ブチっ!!

なんと紐が崖縁との摩擦で切れてしまった!!

「わ〜〜〜!!……… …… …」

ヒノエと敦盛は、あっという間に見えなくなった…

               ☆

「ヒ、ヒノエー!? 敦盛ー!!」
子供達はふたりを必死に探した。

「ああ〜…お、おれの所為だ…」
弟は、自分がからかい過ぎたから敦盛が駆け出してしまったのだと責めた。

「ま、まだ諦めたらダメだ! ヒノエがいるんだし、きっと…!」

「――…………おお〜い…」
木々の間からヒノエのよわよわしい声が聞こえた。

「ヒノエ!? だ、大丈夫!?」
「………ああ……いって…!」
「ヒ、ヒノエ! ケガしてるの!?」
「て言うか、敦盛は!?」
子供達は、ヒノエの声しかまだ聞いてない。

「……わたしは平気…」
か細い敦盛の声を聞き、子供達はとりあえずホっとした。

「…オレ達、崖からそっちに戻れそうにないから、滝のところで待っていてくれ」
ヒノエの提案が最善の選択だった。

               ☆

子供達は滝に着き、しばらく待っていると…

「おお〜い!」

ヒノエは結構元気そうにやって来た。敦盛はシクシク泣いていた。

「ヒノエ!敦盛!ふたりとも、大丈夫なの!?」
「あったりまえだろ!オレを誰だと思ってるんだ!!」
ヒノエはエッヘンと胸を張った。

運良く木々の葉っぱがクッションになって、身体のあちこちを打ったり枝ですり切ったりしたが、大きなケガは無いという。
敦盛はヒノエが守ったので、着物は薄汚れているが、ほとんどキズは無い。

だけどずっと泣いていた。

「よっぽど怖かったんだって」
ヒノエが敦盛の泣いている理由を教えた。

「ああ〜!ごめんよ〜、敦盛〜!!」
弟も“ひ〜ん”と泣いて謝った。

「ほらほらふたりとも、みんな無事だったんだし、もう泣き止んで」
兄がふたりを慰め、ようやく泣いている子はいなくなった。

「それにしても…ヒノエ、いったいどこからやって来たんだ?」
子供達は、解決していない疑問を投げかけた。

「ああ!それがさ!!」

ヒノエは嬉々としてみんなに話した。

               ☆

「…こんなところに洞窟があったんだ」
ヒノエは木々に隠れて見えなかった、崖下の洞窟に案内した。

「あっち、見てみろ!」
みんなが言われた方向を見ると、洞窟は滝の裏側に続いていた。

「おお〜!!なんだか冒険の予感がするな!!」
「だろ!!」
ヒノエと仲間達は“よ〜し!明日はこの洞窟の探検だ〜!!”と意気揚々に盛り上がった。

               ☆

「……わたしは行かないからな」
「…は?」

盛り上がってみたものの、明日から梅雨に入ってしまうので、滝や川には近付いてはいけない決まりになっていた。
もし言い付けを破ると、それぞれの家で惨事が起きるからだ。

「わたしはもう滝には行かない。やだ」
敦盛はプゥと頬を膨らませた。

(………こう言い出したらガンコなんだよな…)

敦盛の性格を読み取り、ヒノエはとりあえず合わせてやる事にした。
「わかったよ。でも、一ヶ月もあるんだぜ。行きたくなるかもしれないじゃん」
「そんな気にはならない」

プイっとそっぽを向き、スタスタ歩いていった。
「…ふ〜ん」
ヒノエもテクテク追いかけた。

(そんな事言っても、ぜったい連れてくんだけど…)

―― ヒノエの強引さを敦盛はまだ知らなかった…――

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