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颯〜はやて〜
「隠し部屋探索日記」

「何なのだ、ヒノエ。こんなところに連れてきて…」
ヒノエは敦盛の手を引き、屋敷のある場所に案内した。

「へへへ…ここ、なんだと思う?」
案内された場所は物置のように見えた。

「物置ではないのか?」
敦盛は思った事を素直に言った。

「半分当たり! 物置は物置さ。弁慶のモノのな」
「え?………ええっ!?」


       颯〜はやて〜「隠し部屋探索日記」


「よーし! 今からこの部屋を探検するぞ〜!」
狼狽する敦盛を無視し、ヒノエのテンションはMAXだ。
「ダ、ダメだよ! 弁慶どの、怒るよ!」
敦盛は必死に止めた。

「平気だって♪ アイツ最近熊野に帰ってきてね〜もん」
戸を開けフムフムとのぞきながら“心配ねぇよ♪”とウィンクした。

「だ、だけど……やっぱり…ダメ、だよ…」
「もお〜! 敦盛、ノリが悪いぜ…あ! そうだ。
 こんな時こそジャンケンの出番じゃね〜か!」

ヒノエは昨日ふたりで決めたルールを思い出した。

「なっ!? それとこれとは話がちがう!」

“意見が対立したら”という条件ではあったが、ヒノエが今やろうとしているのは明らかに悪しき事だ。

「なんだよ 敦盛。平家の公達様は自分で言った事を違えるのか?まったく、平家もたいした事ないね」
ヒノエは敦盛の自尊心を刺激した。

「ななっ!? 平家を悪しく言うのか!? 怒るぞ!」
大好きな平家の悪口には温厚な敦盛も黙ってはいられなかった。

「…平家の悪口は謝るよ、悪かったって。
 だけどさ、ジャンケンでお前が勝てばいいだけじゃん?オレが負けたら探検はやらない」

(…わたしが勝てば問題ないのだな)
「そうだな」
敦盛もシブシブ納得した。

「よし! 勝負だ。ジャ〜ンケ〜ン…」

               ☆

「…うう〜……弁慶どの……ごめんなさい」

ジャンケンはヒノエの勝利で終わった…

「な〜に いないヤツに謝ってんだよ」
ヒノエは嬉々として部屋を探索していた。

「あ…あまり散らかさない方が…」
敦盛はヒノエが物色し、ほったらかしにしたままのモノを元の通りに直していた。

(何かあの真っ黒薬師の弱点になるモノは、と…)

箱をひっくり返してはそのままにして、巻物をほどいてはほったらかしていった。

「む〜!! ヒノエ〜!!」
とうとう敦盛がキレだした。

「なんだよ、敦盛。そうカッカすんなって」
「誰が元通りに直していると思っているのだ!」
ヒノエはゴソゴソと本棚を物色し、一冊敦盛に手渡した。

「これでも読んで機嫌直せよ」
「………勝手に読んだら怒られるのではないの…か?」
手渡された本のタイトルを見、敦盛の言葉は途切れた。

「お前、こういうの好きだろ?」
「………」

その本は敦盛が大好きな物語の本だった。しかも自分がまだ読んでいない話だった。

「部屋を出る時ふたりで元通りにすればいいだろ?」
「…うん」
敦盛は本の誘惑に負けた…

               ☆

「……ちぇ〜! 結局なんにも出てこなかったか…」
ヒノエはガッカリした。

弱点を見つけて、あの腹黒い叔父を黙らせてやろうというヒノエの計画は断念された。

「…ではふたりで片付けよう」
「……そうだな」

ゴミ箱状態の部屋をふたりで片付け始めた。

               ☆
「あと少しだね」
敦盛がニコニコしながらヒノエに話しかけた。

「…なんでそんなにご機嫌なんだよ」
「だってちゃんと片付けているから」

敦盛はヒノエが部屋の片付けをほっぽってしまうと思ったからだ。

「…お前 オレをなんだと思ってるワケ? 約束は守るって」
「うん! そうだね」

(それに万が一バレたら…)

ヒノエは考えるのも恐ろしいとばかりに頭を振った。

「? どうしたの? ヒノエ」
「な、なんでもねぇよ」
キョトンとしている敦盛に、ヒノエは短く答えた。

               ☆

「や〜っと 終わったか」
ヒノエが伸びをして身体をほぐした。

「…疲れた」
敦盛はその場にペタンと座りゲンナリしていた。

「もう夕方だな、早く出ようぜ」

ヒノエは戸を引いた。

(?)

もう一度、今度は強めに引いた。

(!?)

「…どうしたのだ、ヒノエ」
「………開かない」

ヒノエは最終手段として足をかけ“うう〜ん”と思いっきり戸を引いてみた。

……まったく開く気配が無い……

「…なんで開かないんだ…… …!?」

チラリと敦盛を見ると、目に涙を溜め今にも泣き出しそうだった。

「……あ…開かないの?…わたし…たち…閉じ込められた…?」
グスグスと鼻を鳴らし涙が零れ始めた。

「あ、敦盛!? 泣くなって!! オレがなんとかするから!」

ヒノエは敦盛を宥めながら、何か脱出の手立ては…と部屋を見渡した。

(…ん?……眩しい)

ヒノエは窓から差し込んできた夕日に気が付いた。
見上げると天井近くに窓があるのを発見した。

「み、見ろ! 敦盛! 窓がある。あそこから出よう」
言われて敦盛も見上げた。

「……………たかい……わたしにはムリだ…」

そんな事はヒノエも重々承知だった。

「わかってるって! だからオレがあそこから出て外からこの戸を開けてやるよ」

ヒノエは“ちょっと待ってろ”と言い立ち上がろうとした。

「……イヤなのだ…」
敦盛がキュっとヒノエの着物を掴んだ。

「は? 何言ってんだよ」
「…ひとりで待ってるの……イヤ…」

日はどんどん暮れてきて、明かりの無い部屋は薄暗くなってきた。

「……暗いの…こわい…」
「だあ〜!! もう!……あ! そうだ、ジャンケンで…」
「やだ!」

敦盛はしっかりとヒノエを捕まえてジャンケンを拒否した。

(………どうすりゃいいんだよ)

途方に暮れていると…

――…ガラっ!

(!!??)

「…おめぇら……なんでこんなところに…?」

湛快があんなにヒノエが苦労していた戸をあっさり開けた。

「お、親父…」「湛快どの…」
ふたり同時に難敵を処理してくれた人物を見た。

「ななな…なんでそんなあっさり開くワケ!?」
「あ?…この戸は仕掛け扉になってるんだよ」

―― 昔……ヒノエがあんまりこの部屋に入って来ては悪さをするので、困った弁慶が宋の商人に頼んで造ってもらったのだという………

「外からは開け閉め自由だが、中からは戸が閉まると同時にこの留め具が外れて錠が閉まるんだ」

湛快が部屋の中で実演して見せた。

「ったく! あの真っ黒薬師の考えそうな事だぜ!」
ヒノエはプンプン怒った。

「湛快どのが来てくれて本当に良かったです」
敦盛はホっと胸を撫で下ろし湛快にお礼を述べた。

「もう夕飯の時間だぞ。若葉が待ってる」
子供には手の届かないところにある錠を解きながらふたりに言った。

「オレ、お腹ペコペコだよ」
「わたしも…お腹、すいた」
「お! いい事だな、坊。いっぱい食べろよ! 大きくなるから」

湛快はヨシヨシと頭を撫でた。

「…!……はい!」
「ええ〜! 敦盛、食べるの〜!?」

いつも敦盛が残す御飯まで平らげてお腹いっぱいにしているヒノエは、アテが外れて不満気にした。

「…まあいいか。その分おかわりすれば」
「うむ、そうしろ、ヒノエ」
何故かエラそうに敦盛は胸を張った。

(大きくなって、見た目でも年長に見えるようになるのだ…!)

―― 敦盛はいつかヒノエより大きくなる事を心に誓った ――

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あきゅろす。
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