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颯〜はやて〜
「青嵐の夜」

       ―― ゴロゴロゴロ…――

「……雷、近付いてきたな…」
ヒノエは窓から外の様子を見た。

「…ヒノエ〜、危なく…ないのか?」
敦盛は部屋の中で 窓から一番遠くの隅っこで 膝を抱えていた。

「な〜に ビビってんだよ! こんな嵐くらい、で!?」

   ――ガラガラガラ!! ズズーン……――

「ひ〜〜〜ん!!」
敦盛は顔を覆いうずくまった。ヒノエも平静を装っていたが、
(い、今のはちょっとビビったぜ…)
と 内心バクバクいっているのを感じていた。

ヒノエが部屋の方に振り向いた瞬間、空が目映い光を放ったかと思うと、耳を劈{つんざ}く轟音と共に雷鳴が落ちた。

「おお〜い、ガキども〜」
湛快がふたりに声をかけた。

「なんだよ、親父」
「今日はこんな嵐だし、おめぇら早めに寝ちまえよ」
湛快が“起きててもいい事ねぇぞ”と就寝をうながした。

「…まあ そうだよな。敦盛、寝ようか」
「………うん」
敦盛は顔を覆ったまま答えた。


       颯〜はやて〜「青嵐の夜」


「じゃ、おやすみ」
敦盛を部屋まで送ってヒノエも自分の部屋に向かおうとすると…

「…ヒノエ」
敦盛に袖を引かれた。

「あ? なんだよ、敦盛」
「うん……あの…ね………その…」
敦盛はモジモジしながらヒノエにお願いした。

「………いっしょに、寝ちゃ…ダメ?」
「はあ〜!?」

敦盛は“嵐が怖いからひとりでは眠れない”とヒノエに助けを求めてきた。

「今日だけでいいのだ……ダメ?」
「あのなぁ…」
敦盛はウルウルとヒノエを上目遣いで見た。

(ここで“いいよ”とか言ったらオレは何かに負けた気がする…)

ヒノエは自分自身の良心と葛藤した。

「なんだ おめぇら、まだ寝てねぇのか」
湛快がまだ廊下にいたふたりに話しかけてきた。

「…湛快どの」
「どうした、坊。ヒノエにイジメられたか?」
涙目の敦盛を見、ヨシヨシと頭を撫でた。

「ちがうのです……実は…」
敦盛はさっきヒノエに言った事を湛快にも話した。

「な〜んだ、そんな事か。じゃあ俺がいっしょに寝てやるよ」

(!? な、何考えてんだ! この親父は!!)
ヒノエは狼狽した。

「ほ、ほんとですか、湛快どの!」
敦盛は思いもよらぬ助けが来た! と ばかりに喜んだ。

「何なら嵐など恐がらないオトナにでもしてやろうか?」

(!!?? な なな…こ、このエロ親父…!)

「湛快どのはこんな不甲斐無いわたしをオトナに出来るというのですか?」
「まぁな」
湛快の言葉の意味を理解していない敦盛は、素直に感心していた。

「バ バババ、バカ!!…オ、オレが敦盛と寝る!」
ヒノエは敦盛の手を引き、自分の部屋に連れていった。

               ☆

「……湛快どの の方が強そうなのだ…」
敦盛の寝具を運んできたヒノエに不満を漏らした。

「ああ!? せっかく親父の魔の手から救ってやったのになんだよ!」
ヒノエはプンプン怒った。

「??? 魔の手??」

純粋な敦盛はヒノエの言葉の意味が理解らず、キョトンとしている。

「………はあ……お前も大きくなればわかるよ…」
ヒノエはため息を吐いた。

「まあいい。ヒノエ、寝よう」
敦盛は布団の中に入った。

「そうだな。嵐も朝には過ぎているだろうし…おやすみ、あつも…」
ヒノエも自分の布団に入った瞬間、

     ――ズガシャ〜〜〜ン!!!――

また雷が落ちた。

「あ゛〜〜ん゛!!!」

敦盛が自分の布団から飛び出してきてヒノエの布団に潜り込んだ。

「バカ! お前の寝床はあっちだろ!!」
敦盛はカタカタ震えヒノエにお願いした。

「……いっしょに…」
「ダメ!!」
敦盛の言葉を最後まで聞かずヒノエは断った。

「ヒノエ〜……」

敦盛はヒノエの着物をしっかり掴み、ウルウルウル…と見つめた。

「〜〜〜……はあ……わかったよ…」
ヒノエはとうとう敦盛に屈服した。

               ☆
「スゥスゥ…」

あんなに嵐を怖がっていた敦盛だが、ヒノエといっしょに寝ていて安心したのか、すぐに眠ってしまった。

(…いい気なもんだな…)
ヒノエは寝息を立てている敦盛を見た。

(!!!)

まるで女の子のような寝顔に、ヒノエはドキドキしてしまった。

(バ ババ バ、バカ! オレのバカ!! コイツは男!!!)

ヒノエはなんとか理性を取ろうと必死になった。

(………早く寝よう)

敦盛のいる反対方向を向きヒノエも目を閉じた。

               ☆

「……ノエ、……ヒノエ…」
「………ん…?」

ヒノエは体を揺さ振られ目を開けた。

「…なんだよ 敦盛……まだ夜中じゃねーか…」
ヒノエは欠伸{あくび}をしながら身を起こした。

「…あのね……厠、ついて来て」
「………はあ……わかったよ…」
どうせ何を言っても敦盛に付き合うことになりそうなので、ヒノエは素直に賛成した。

               ☆

廊下を歩いていると嵐の音は止んでいた。

「敦盛、嵐は過ぎたみたいだぞ。もう怖くないだろ」
ヒノエは“じゃあな”と 言って、部屋に戻ろうとした。

「ち、ちがうの!」
帰ろうとするヒノエをしっかり捕まえて、敦盛はフルフル首を振った。

「…何が ちがうんだよ」
「……恐い夢、見た…」
ヒノエは忙しいヤツ、と思った。

               ☆
「ヒノエ〜♪」
用が済み、敦盛はすっかりご機嫌だ。

「ふぁ〜あ…じゃ、帰るぞ」
「ね〜、ヒノエ〜」

部屋に向かって歩き出そうとするヒノエを止めた。

「……今度は なんだよ…」
もう最後まで付き合ってやるか、と ヒノエは覚悟を決め振り返った。

「あれ、見てー」

敦盛は空を指差した。

嵐が去った空には満天の星空が輝いていた。

「きれいだね」

敦盛はニッコリ微笑んだ。

「……そうだな」

ヒノエも微笑んだ。

    ―― 明日はきっと、快晴だ ――

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あきゅろす。
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