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颯〜はやて〜
「手紙が届いた日」

       颯〜はやて〜「手紙が届いた日」

「じゃ、約束通りその甘ったれ根性を叩き直してやるからな」
「…どうすればよいのだ」

森で遊んだ次の日、ヒノエは敦盛に言った。

「そうだな… …! お前も水軍に入れ!」

ヒノエは少し考え一番手っ取り早く、根性の付く方法を提案した。

「………わたしにはムリだ」

敦盛は去年、清盛達と一緒に来た熊野参詣を思い出した。
その時ヒノエに水軍の訓練を見せてもらい、とても感動した。

“お前もやるか?”と、誘われたが“イヤなのだ〜”と、経正の後ろに隠れたのだった。

「やる前からあきらめんな!」
「ヤダ! できない! ……え〜ん…」

「…だから涙、出てないって…」
「………」
嘘泣きがバレ敦盛は黙った。

「…ったく、妙なワザ習得しやがって… つーか、誰が騙されんだよ」

「……惟盛どの と 重衡どの」
「引っ掛るヤツがいんのかよ!!」
ヒノエは思わずツッコんだ。

「でも あにうえ と 知盛どの には通用しない…」
「オレにも通用しないからもうするなよ」
敦盛はコクっとうなずいた。

とはいえ、敦盛に水軍は無理だろうとヒノエは思った。

「う〜ん……そうだなぁ…… …!」
ヒノエは閃いた。

「じゃあお前、人前で泣くのをやめろ」
「わたしは人前で泣いたりしてない!」

「何言ってんだ、一昨年オレが京に行った時 す〜ぐ泣いてたクセに」
「ま、まだ小さかったからだ!」
ヒノエの指摘に敦盛は声が上擦った。

「去年ブランコから落ちてピーピー泣いてたのは誰だっけ?」
「あ、あれは……あまりの出来事に動転して…」
敦盛は目を伏せた。

「とりあえず泣き虫を直せ! 今度オレの前で泣いたら…」

何か罰を…と思ったが、普段仲間達とはお互いに言う事を聞かせる時はゲンコツで解決していた。

敦盛にはそういう事は出来ないと思った。第一 叩いたりしたく無かった。

「なんかいい罰は無いかなぁ…」
「ば、罰っ!?」
敦盛は既に怯えてしまった。

「あ!…そうだ!!」
ヒノエはいい罰を思い付いた。

「泣いたらお前の笛、没収な」

「!!!ええっ!??」

笛は敦盛の宝物だ。寂しい時笛を吹いたら気持ちが和らぐ大切な笛なのだ。

「イヤなのだ! ダメなのだ! え〜ん!!」
「嘘泣きは効かないって言ったろ! 没収するぞ!」
敦盛はピタっと嘘泣きを止めた。

「そうそう、もう泣くなよ! じゃ、帰ろっか」
ヒノエは敦盛の肩をポンポンと叩いた。

「う〜〜〜」
不満そうな敦盛を無視しヒノエは
(これで親父に怒られなくなるぜ)
とか思っていた。

敦盛が泣くと、自分が叱られる事を重々承知していたからだ。

               ☆

「お! 帰ってきたか」
珍しく湛快が出迎えた。

「ただいま帰りました、湛快どの」
「なんだよ親父、珍し… …な゛!?」

ヒノエの言葉が最後まで終わる前に、湛快のゲンコツが頭に直撃した。

「い、いってーな!! 何すんだよ!」
「帰ってきたら“ただいま”だろ。このバカ息子が」
「自分の息子をバカってゆーな!」
ヒノエはうずくまり 殴られた頭をさすりながら湛快に文句を言った。

「坊はちゃんと挨拶出来て偉いな」
そう言い湛快は敦盛の頭を撫で撫でした。

「は、はい…」
うずくまっているヒノエをチラチラ見、敦盛はされるがまま立っていた。

「ヒノエにイジメられてねぇか?」
「イジメねーよ!」
敦盛が言う前にヒノエが答えた。

「おめーに聞いてねぇよ」
湛快はヒノエのホッペをムニ〜っと引っ張った。

「ひ(い)、ひ(い)たいって!! はら(な)せよ!」
「た、湛快どの! わたしはイジメられてなどいません!」
見かねた敦盛が湛快に答えた。

「そうか、ヒノエに不満があったらすぐ言えよ。懲らしめてやるから」

(十分懲らしめてるじゃねーか!)

今度は頬をさすりながらヒノエは思った。

「た、湛快どの みずから出迎えにいらっしゃったのは
、何か御用がお有りなのでしょうか?」

敦盛が話題を変えようと思ったのか、湛快に質問した。

「ん? ああ、そうだった。坊に手紙が届いているぞ」
「手紙?」
湛快は敦盛に手紙を渡した。

「…誰から…… ! あ!!」
敦盛は差出人を見てパアっと笑顔になった。
そして湛快にお礼を言い自室へと走っていった。

「な、なんだよ! 手紙、誰からなんだよ!?」
ヒノエの質問に敦盛は振り向かなかった。

               ☆
(あにうえ…!)
敦盛は京にいる兄からの手紙を何度も読みふけっていた。
(…… ……… ……)
               ☆
(?敦盛?)

兄からの手紙には勝てない、と 今日は遊びに行くのを諦め、自分も水軍の縄結びの練習をしていたヒノエは、敦盛がこっそり外へ行くところを目撃した。

(…アイツ…今頃どこ行く気だ?)

もうすぐ晩飯の時間なのに…と 思い、敦盛を迎えに行く事にした。

               ☆
「敦盛!」

(!)

ヒノエが声をかけると、こちらを振り返る事なくビクっとし、そのまま本宮の外へ走り出してしまった。

「!? おい! どこ行くんだよ!」
ヒノエも敦盛を追いかけた。

……敦盛はすぐに捕まった。
「なんで 逃げるん…だ…よ?」

ヒノエはギョっとした。
敦盛の大きな瞳は、今にも涙が溢れそうなくらい、いっぱい溜まっていた。

「な、な、なんだ? どうした??」
ヒノエは狼狽し、尋ねたが 敦盛はフルフル首を振るだけで何も答えようとしない。

「手紙にヤな事でも書いてたのか?」
そう聞くと敦盛は堪えきれずに泣き出してしまった。

「!!! な、泣くなよ! 今度 熊野に来た時オレが取っちめてやるから!」

毎年夏には参詣で平家一門が熊野に来るのだ。

「ち…グスっ……ちがう…ヒック…のだ……」

敦盛は取っちめられてはいけないと、泣いて上手に喋れないが必死に伝えた。

「…じゃあ、どうしたんだよ」
「………う…ヒク……うん…」

敦盛はなんとか泣きやみ理由を話した。

「……あにうえの手紙…わたしの事…京の事…夏に熊野に来る事、書かれていた…」

「………別に泣くような事、書かれてないじゃん」
ヒノエがそう言うと、敦盛はコクンとうなずいた。

「…あにうえの手紙……何度も読んだら……」
言いながら顔を くしゃくしゃにして、また ヒックヒック…と泣き出してしまった。

「そ、それで? どうしたんだよ」
ヒノエはヨシヨシと宥めた。

「あ…あにうえに……会いたくなってしまったのだ…!」
敦盛は顔を覆って“わ〜〜〜ん”と大泣きした。

「だ、だから泣くなって!」

(こんなところ親父に見られたらどうなる事か)

ヒノエは父の制裁を恐れ焦った。

「ヒ、ヒノエの…前で……泣いたら…笛……取られるから…」
だから外でこっそり泣こうとしたらしい。

(!……)

ヒノエは自分が怒られたくないから命じた条件と罰で、敦盛を苦しめてしまったんだと気付いた。

(そう…なんだよな…コイツ、一人で熊野に来てたんだ…)

敦盛がいつも大好きな兄にベッタリくっ付いていた事を思い出した。

そして自分の事ばっかり考えていたのを反省した。

「ち、ちがうんだ! 昼間のはそういうんじゃなくて…」

「ど…う……ちがう…のだ?」
涙を袖で拭き取りながら聞いた。

「“人前”っていうのは…そうだ! 親父達の前でって事だ!」

「…湛快どの達…の、前?」
どうにか泣き止んで敦盛は聞いた。

「そう! お前が泣いてると、オレが怒られるの知ってるだろ」
敦盛は“うん”とうなずき“すまない”と謝罪した。

「だから!…その……寂しくて泣きたくなったらオレの前で泣け…よ」

「………いいの?」
「ああ!」

「…わ〜〜〜〜〜ん!! ヒノエ〜!」

―― 寂しい気持ち、全部出て行け! と ばかりに ずっと、泣いた…――

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