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颯〜はやて〜
「森で遊んだ日」

       颯〜はやて〜「森で遊んだ日」

それは、敦盛が熊野で 暮らすようになって 間もない日のお話…

「敦盛! あんまり急ぐと転ぶぞ!」
「大丈夫なのだ♪ あ! あれは何なのだ?」

ヒノエと敦盛は 本宮近くの森へ遊びに来ていた。

「あれは スモモだよ、食べたいのか?」
敦盛はコクっとうなずいた。

「じゃあ 取ってくるから ここにいろよ」
「わかった!」

ヒノエはスルスル木に登り、スモモを二つゲットした。そして スルスル下りてきた。
敦盛は そんな様子を 感嘆の眼差しで 見つめていた。

「ほらよ」
「ありがとう。…! 甘いな!!」
敦盛は一口食べ、スモモの甘さに感動した。

「良かったな!」
ヒノエもスモモをかじり
「うん! 冷えてたら もっと美味かったな」

「あ! あっちは何なのだ?」
敦盛は 半分になった スモモを持ったまま 駆け出した。

「おい!食ってからにしろよ! …落ち着きの無いヤツだな」

熊野の自然は 敦盛にとって すべて物珍しかった。
自由に 外へ出掛けられるのも 嬉しかった。

ただひとつの 不満を除けば…

               ☆

(…ちょっと遠くまで来すぎたかな)

ヒノエは帰りの心配をした。
自分はまだまだ元気だが、敦盛はそうはいかないだろうと思い、
「敦盛、そろそろ帰ろうぜ」
「え〜!? ……まだ遊びたいのだ」
敦盛はムゥっと繭を寄せた。

「何 言ってんだ。……お前ここまで来た道のり、また歩いて帰るんだぜ。わかってる?」
「え……」

敦盛は“遊びたい”とは言ってはみたが、結構疲れてしまっていた。

「帰りが遅くなったら(オレが)怒られる。行こうぜ」
ヒノエは敦盛の手を取り、本宮への帰路を進んだ。

               ☆

「疲れた〜!……歩けないのだ」
敦盛が立ち止まった。

「もうちょっとで着くから…がんばれよ!」
ヒノエは敦盛を励ました。

けれど…

「ヤダ! …歩けないのだ」

敦盛はフルフル首を振った。ヒノエの手を払い、プイっとそっぽを向いた。
そんな敦盛の態度に ヒノエもムっとした。

「あっそ! じゃあ ずっと そこにいな!」
ヒノエは敦盛を置いて、スタスタ歩いて行ってしまった。

「え……ヒ…ヒノエ?」
敦盛はポツン と、一人に なってしまった。

               ☆

(…そろそろ追っかけて来る頃かな)
ヒノエは物陰で、敦盛が自分を追いかけて来るのを 待っていた。

以前 自分も同じような事をして、父に置いてけぼりにされた事があった。
その時 とても怖くて“歩けない”と言っていたクセに、走って追いかけて行った事を 思い出した。

(それにしても おっせーなぁ …何やってんだ?)
ヒョイっと様子をうかがった。

(!??)

敦盛の姿が無かった。すぐ迷子になったと気付いた。

「あ、敦盛っ!? どこだよ!!」
ヒノエは夕焼けの森の中を走った。

               ☆

………敦盛はすぐ見つかった。本宮とは反対方向にいた。

「何故ヒノエが後ろから走って来るのだ?」
聞くと 自分はまっすぐ ヒノエの後を追ったのだ と言う。

(この方向音痴め…!)
ヒノエはワナワナと震えた。

「…それより お前、歩けねーんじゃ無かったのか?」
「あ! …歩けないのだ! ……え〜ん…」
敦盛は泣き声を上げ、しゃがみ込んだ。

「…泣いたって 誰も来ねーぞ……て、涙 出てねーじゃん!」

「………」

嘘泣きが見破られ、敦盛は黙った。そして…
「イヤなのだ! 歩きたくないのだ〜!!」
ワガママを言い出した。

「……どうして欲しいんだよ…」
ヒノエは呆れながら尋ねた。

「………おんぶ」
「はあ? おんぶ〜!?」

水軍で鍛えているヒノエにとって、自分より小柄な敦盛を おんぶするのは 容易い事だった。
だが、その根性が気に入らなかった。

「お前! ……! …!…はあ…わかったよ…」

ヒノエは文句を言おうと思ったが、これ以上遅くなると 父にどんな目に遭わされるか 恐かったので、敦盛のワガママを聞く事にした。

「……ほんと?」

(早く帰んねーと 本気でオレが怒られるからな)

「わ〜〜〜い!」
ヒノエの心中など 知った事かとの様子の敦盛は 大喜びだ。

               ☆

「いいか! 今日だけだからな」
「うん…」

一つ年上の敦盛を 軽々おんぶしてヒノエは忠告した。

「明日っから オレが お前の甘ったれた根性を 叩き直して…やる!?」

急に敦盛が重くなった。

「敦盛!? 何やって…」

見ると 敦盛はスゥスゥ寝息を立てていた。

「…はあ〜……何なんだよ、コイツ…」
ヒノエが呆れていると…

「あにうえ…」
敦盛の寝言が聞こえた。

ただひとつの不満……兄が一緒で無い事だ……寂しかった……
夜になると、どうしても兄の事を思い出し…泣きたくなってしまうのだった…

(オレや親父の前では そんな素振り見せないくせに…)

多少のワガママは 寂しさの裏返しなのだ。

(…まあ ちょっとくらいの ワガママなら、聞いてやってもいいか…な)

ヒノエはテクテク本宮へ向かった。

(でも…甘え根性だけは ぜったい直させるからな!)

―――夕焼けに照らされた自分達の長い影を見てヒノエは誓うのだった―――

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