[携帯モード] [URL送信]

颯〜はやて〜
「ジャンケンに勝った日」

敦盛はジャンケンが嫌いだった。肝心な時、いつも負けるからだ。
ヒノエに代わり本宮の庭掃除をしているのも、ジャンケンが原因だった。


       颯〜はやて〜「ジャンケンに勝った日」


「…あれ?……敦盛くん、ですか?」
「……! 弁慶どの!!」
不意に声をかけられ、振り返ると弁慶が立っていた。

「いつ、こちらへ?」
「しばらく熊野にいる事になりましたので……それより、どうして敦盛くんが庭掃除など?」
「それは……ジャンケンで…負けたから……」
「???」

言いながら落ち込む敦盛と、答えの意味が理解らない弁慶のところへ
「敦盛〜、掃除終わった〜?…って、なんであんたがいるんだよ!」
ヒノエがプラプラやって来た。

「弁慶どのは、しばらく熊野にいられるそうなのだ♪」
敦盛は嬉しそうに報告した。
「あ、そう」
ヒノエは素っ気無く返事した。

「ヒノエ、境内の清掃はキミの仕事のはずでしょう?」
「……さっそくお小言かよ…」
「敦盛くんに押し付けて悪い子ですね」
「あんたの甥だからね」

いきなり始まった叔父と甥の言い争いに、敦盛はオロオロした。

「…あ…あの!弁慶どの…ヒノエも…」

「なんだよ」「なんですか」

ヒノエと弁慶は息ピッタリに敦盛に返事した。

二人に詰め寄られ敦盛は
「………ケ、ケンカはイヤなの…だ……」
シクシク泣き出した。

「!! な、なんでお前が泣くんだよ!……あんたの所為だからな!」
「キミが仕事を押し付けたからでしょう」
「あ〜ん!! ケンカはやめるのだ〜!!」
「………はい」
ヒノエと弁慶は、泣く敦盛には弱いらしく、素直に反省した。

「ヒック…ほ、ほんとに…もうケンカ、してない?」
「ああ!してないぜ!」
「ええ、僕も争い事は苦手ですし」
「どこがだ…!モガ」
ヒノエのツッコミは、弁慶に口を塞がれ阻止された。
「良かったのだ」
敦盛はニコっと笑った。

「じゃあ敦盛くん。僕、お土産にキミが好きそうな本を持ってきたのですが…」
「ほんとですか! 嬉しいです!!」
敦盛は目を輝かせた。

「はい、どうぞ」
本を敦盛に手渡した。
「ありがとうございます!さっそく読みます」

「ちょっ、ちょっと待てよ!」
ヒノエは弁慶を振り払って敦盛に言った。

「花の窟に行くぞって、言っただろ!」
「…あ、……う〜…でも…本…読みたい…」
「ダメだ! 行くの!」
敦盛の要求は却下された。

「キミは どうして そう 強引なんですか」
シュンとした敦盛を見かね、弁慶が注意した。

「なんだよ〜……そうだ! ジャンケンで決めようぜ」
ヒノエと敦盛は、意見が対立した時、ジャンケンで決める事にしている。

「ええ〜! ジャンケン〜!?」
敦盛は嫌そうな声を出した。
「いくぞ! ジャンケン、ポン!」
「ポ、ポン!」

ヒノエは“パー” 敦盛は“グー”を出した。

「オレの勝ち! さあ行こうぜ、あんた 箒片付けといて」
敦盛から本と箒を奪い、弁慶に手渡した。
そして有無を言わさず、敦盛を連れて行ってしまった。


「…ジャンケン、ね」
一人残された弁慶は、ポソっと呟いた。

               ☆

「敦盛くん、ちょっといいですか?」
夕餉も終わり、自室にいる敦盛に声をかけた。

「は、はい! なんですか 弁慶どの」
敦盛は襖を開け、弁慶を招き入れた。

「いえ…キミに確認したい事がありましてね」
「? 確認?」
「それは…」
               ☆

次の日は朝から雨が降っていた。

「敦盛! 外、行こうぜ!」
「………雨、降ってる」
ヒノエの提案に、敦盛は空を指差して答えた。

「森の木々から降ってくる雨、すげーきれいなんだよ!」
「………」
敦盛は無言でヒノエを見た。

「何を言っているのやら…敦盛くんに風邪を引かせたいのですか」
弁慶がヒノエに注意した。
「弁慶どの!」
敦盛は笑顔で弁慶の側に寄っていった。

「阿呆な甥はほっといて、今日は僕と読書でもしましょうか」
「はい、それがいいです」
敦盛は素直に賛成した。

そんな敦盛の様子に、ヒノエはムっとした。

(オレの提案はいつも不服にするのに!)

「本を持ってくるのだ〜」
敦盛はパタパタ自室に走っていこうとした。

「待てよ! 敦盛」

ヒノエに呼び止められた。

「? 何なのだ、ヒノエ」

(これ以上敦盛をとられてたまるか)

「…ジャンケン、しようぜ」
「……!」
「オレが勝ったら森に行こうぜ」
「………」
敦盛は無言だった。

「では敦盛くんが勝ったら、キミは何をしてくれるんです?」
弁慶が尋ねた。

「そん時は、今日一日 なんでも言う事 聞いてやるよ!」
「そうですか、敦盛くん 頑張ってください」
弁慶は敦盛を応援した。

「よーし…ジャン…ケン……ポン!!」
「!!!??」

ヒノエは“パー” 敦盛は“チョキ”を出した。

「……!…勝った!……わ〜い! 勝った、勝った〜!!」

呆気に取られているヒノエを余所に、敦盛は無邪気に勝利を喜んでいた。
「良かったですね、敦盛くん」
「はい! 弁慶どの の おかげです!」

(コイツの…お陰…?……まさか!)
ヒノエは全て察知した。

            § §
            § §
それは昨夜の事…

「敦盛くん。僕とジャンケンしましょう」
弁慶は敦盛に勝負を挑んできた。

「え……でも…わたし…よわい……」
敦盛はうつむいた。

「三回勝負ですよ、ジャン ケン…」
「え…あ! ポ、ポン!」

一回戦目は弁慶が“パー” 敦盛が“グー”を出した。
「う〜……やっぱり…」
「敦盛くん、二回戦です。ジャン ケン…」

二回戦目は弁慶が“チョキ” 敦盛は“グー”を出した。
「わ〜! 勝った〜!」
「一勝一敗ですね。ジャン ケン…」

三回戦目は弁慶が“パー” 敦盛は“グー”を出した。
「……二勝一敗で弁慶どの の 勝ちです…」

敦盛はショボンとした。そんな様子を見ながら、弁慶はクスクス笑った。

「……ヒドイです…笑うなんて…」
「いえいえ、敦盛くんはどうして“グー”しか出さないのかな、と思って」
「えっ!?」

「キミは僕が、何で勝って何で負けたのか、覚えていますか?」
「え、えーと…弁慶どのは、最初“パー”で勝って、次は“チョキ”で負けて……ああ!」

敦盛はヒノエとの勝敗が、いつも“パー”を出されて負けている事に気付いた!
「……ヒノエはその事を知っていたのだな…」

たまに敦盛が勝つ時もあった。
それはヒノエがあまり困らないような決め事の時だった…

            
            

「よくも敦盛に言いやがったな!」
”本を持ってくるのだ♪” と、ウキウキしながら、自室に向かう敦盛を見送ってから、ヒノエは弁慶に詰め寄った。

「バレないように、敦盛くんを時々勝たせて置くなんて、ヒノエも悪知恵が働きますね」
「あんたの甥だからな!」
ヒノエはプイっとそっぽを向いた。

「“パー”で負けるなんて、オロカですねぇ」
「ゆーな!!」
「オロカな甥っ子には何をしてもらいましょうか」
弁慶はフフフ…と不適な笑みを浮かべた。

「!? ふざけんな! 言う事を聞くのは、敦盛の願いだけだぞ!」
「おや、そうですか…あ!敦盛くん。ヒノエにお願いする事、何か決めましたか?」
敦盛が本を持って戻ってきた。

「え…いいえ なにも」
敦盛はプルプルと首を振った。
「じゃあ僕がお願いしてもいいですか?」
「はい、いいです」

(おいおい! 敦盛〜!?)

ヒノエは生け贄に捧げられた気分だった。
「だそうですよ、ヒノエ♪」
弁慶はいつもと変わらぬ笑みを浮かべているが、ヒノエは叔父の腹黒さをよく知っていた。

「何をお願いしましょうかねぇ…」
「…!!! もう ジャンケンは無しだ〜!!」
ヒノエは部屋を飛び出した。

「ヒノエ!? …森に行くのか?」
「さあ? ヒノエも元気ですねぇ」

―― 雨は シトシト… 一日 降っていた ――

―★☆―★☆―★☆―★☆―★☆―★☆―★☆―★☆―★☆―★☆―★☆―★☆―★☆―


[*前へ][次へ#]

10/75ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!