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人間誰にだって…

「意外だねい」


夜、一番隊が見張り番のとき。
船尾ではシトラスが一人、煙草をすって闇の海を眺めていた。
そこへマルコは後ろから声をかけた。


「なにがですか?」

「煙草。紳士って言われてるから吸わないと思ってたよい」


シトラスは照れくさそうに笑った。


「なに照れてんだい」

「いえ。昔、彼女に言われたことを思い出しまして」

「噂の奥さんかい?」

「はい」


シトラスは首から提げているペンダントを見せた。
その中にはシトラスと美しい黒髪の女性が笑いあっている写真がはいっていた。


「綺麗な人じゃねぇかい」

「惚れないでくださいよ」

「アホか」

「いで」


マルコは軽くシトラスの頭を小突いた。
その衝撃で煙草の灰が少し海へ落ちていった。


「で?何ていわれたんだい」

「かっこいいって言われたんですよ。この煙草を吸っている横顔」


頭を掻いて照れくさそうにシトラスは自慢した。


「幸せ者だねい。その噂の奥さんはおめぇが海へ行くことに文句を言わなかったのかい?」

「それがビックリ!彼女から海へ行けって言い出したんですよ。僕は嫌がったんですけど、行かないと離婚するぞって脅されて。本音を言うと、僕が海へ飛び出したいことを彼女は理解してくれてたんでしょうね」


マルコは穏やかな表情を浮かべるシトラスを見た。
そしてどこかに持っていたのだろう、一本のワインを取り出した。


「どうしたんですか?それ」

「サッチを脅して貰ってきたんだよい」

「隊長がこんなところでお酒なんて飲んでいいんですか?」

「おめぇも飲めば共犯だい。おら、乾杯」

「何に乾杯するんですか?」


シトラスは赤ワインが注がれたグラスを受け取りながら笑った。
マルコは一瞬、眉をひそめて考えた。
しかしすぐに考えるのをやめた。


「この海に」

「あっ、そういうのいいですね」

「「乾杯」」



その後二人は年齢にあった会話をし、静かに飲み明かしたのだった。


褒められたら続けちゃう




翌日、食堂では顔にひどい痣を作ったフランスパンが目撃されたらしい。






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