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鹿ノ子とプリンスM
人の心を突き動かした音楽の話





街の上空にはお月様
月明かりの下にはお姫様


姫様、今日はどちらへ?
今日"も"、中央通りに行くわ




舞台はOEDO星
宇宙にその存在を有する惑星 太陽系とは違う銀河系に位置する惑星
人々は伝統を重んじるのである

地球の者からすれば"和"
OEDO星の者からすれば"江戸"
伝統…そう意味を込めて呼ぶ




彼女は城内では有名なおてんばなお姫様だった

夜な夜な城を抜け出しては中央通りへ向かうお姫様
昼間は猫を被ったように大人しいのに…




でも、誰も彼女の目的を知らない


 
 
 
南蛮楽器「ぎたぁ」を持つ男と長髪を緩く結った少女がそこには居た

「お嬢さんの名前は?
いつも来てくれているんだ…教えてくれないか?」

「…あたしは鹿ノ子
…それから"お嬢さん"って程幼くはないわ…あんたは?」

「ん?…教えられる程の者でも無いよ
ただの吟遊詩人さ。M(エム)と呼んでくれ」

「何それ」



以前は鎖国していたこの星も、つい先月"開国"した
それに伴い沢山の文化が流れ込んできた

人々は余所の文化を"南蛮"と呼び親しんだ
ただ、変わったのは街並みや流行り…
基本的に自分の星を愛する人々は服装や食事などは変えなかった




「…南蛮の楽器はこの国にも浸透してきたわ…
M、あんたは何を求めてこの惑星に来たの?」

「…その質問は吟遊詩人には酷だよ、姫…」

吟遊詩人は下がってきた前髪を軽く耳元に寄せる

「!…いつ身分に気づいたの?」

「…姫は南蛮がお好きなのかな?
スカートを身に付けて袷を着て…どっちにしろ羽織っているのは上物だ

後はカン…かな?
気位が高そうだし、」

2人の間を生暖かい風が吹き抜ける
この惑星は春と梅雨と秋と冬しかない

「そうなの…まぁ、ばれちゃ仕方ないか

…最後のはなんか引っかかるけど…?」

互いに目を合わせて、笑った

やはり異国の者は面白い
自分に、身分に関係なく接してくれるのだから



対等な関係が欲しかった





吟遊詩人がOEDO星に来てから二週間の時が流れた
この吟遊詩人は気分屋なためかあまりそのギターに手を掛けようとはしなかった

「詩人は詩が浮かばないと曲が創れないんだ」

…なら、曲を創ってから詩を合わせればいい、のに…







「ねぇ、あんたは何で歌うの?」

「姫 どうしたんだ?
いきなりそんなことを聞くなんて…らしくない」

…失礼な奴。

「…吟遊詩人は歌を歌い歩くものだ
普通はね。
ただ 例外もあるものさ」

遠くを見つめた彼はそっと目を閉じる

"早く話しなさい"というような視線に気づいたのか吟遊詩人は観念したように真実をこぼし始める

「…友達を探しているんだ その手がかりも…


小さな女の子でね、リアリィっていうのさ

彼女は…あるところに閉じこめられている
彼女とは精神世界で逢える…だけど…現実世界では逢えない



救い出さなければ崩壊に巻き込まれてしまう



だから…例外の吟遊詩人には強い魔力があってさ、惑星を渡り歩いているんだ

"四次元の間"を探して…ね」




姫は頬にかかった髪を首もとに寄せた
「あんたは"探し物"の最中なのね…」



長い長い時間と
たくさんの魔力の消費と
いつ"崩壊"が起こるか分からない恐怖と

それに耐えながらこの詩人は歌い続けながら探し物を追い求める

「あんたはその女の子に気づいてもらえるように歌っているんでしょう?

なら、そんな飾っただけの歌詞じゃなくて、もっと本心を曝け出すような歌にしなさいよ」


…核心をつく発言だ


「………姫、それが出来たら苦労はしないさ…」

吟遊詩人は溜息をつく。確かにそのアイデアは有難い。けれど出来たらとっくにしているのだ

「吟遊詩人はデリケートだからね

…言葉を飾って本心を閉じ込めようとするものなんだ」






すると鹿ノ子が突然何かを思いついたかのように手をたたく

「ねぇ、M…いい考えがあるわ。
あたしが詩を考える。


だからあんたはあたしに曲を創って頂戴!


あたしは南蛮の曲が好きなの。手に入れたいの。
それにね、もしかしたらその歌に探し物の子…ええと、リアリィだっけ? が気がつくかもしれないわよ?」

だから耳に残るような格好いい曲を創りなさい!

そう言って姫は場を後にする




残されたのは呆然とした詩人

…クスクス、と小さく笑いながら
「…やはり鎖国していた星の者は面白いな…
来て正解だった…



…リアリィ、もしかしたらもうすぐ出会えるかもしれないよ…」

呟きは闇に解けて消えていった



吟遊詩人が来てから三週間が経った


詩も曲も完成し、後は合わせるだけ
事前に五線譜が渡された鹿ノ子は夜な夜な練習を続けた




自分でもここまで頑張っていることに驚いているくらいだ



城に居る間は、周りからの期待と自分の立場を弁えての行動しか出来なかった

"姫様なんだからお淑やかに振舞いなさい"

この戒めにどれだけ縛られてきたことだろう

伝統を重んじる星だ、開国もかなりの話し合いを重ねての決断である
この長い髪も、着物も、使ってきたもの 何から何まで全て"江戸"


そんな彼女が南蛮の文化に憧れない筈が無かった

開国して一週間…城にやって来た一座の披露した"こんさぁと"にどれだけ心惹かれたか

「(ああ、南蛮の楽器の音って素敵なのね…江戸のものと合わせたらどうなるのかしら)」

それから姫は南蛮の楽器に"ハマって"しまい、夜な夜な城を抜け出しては通りに溢れる音を楽しんでいた

「("すとりぃと みゅうじしゃん"って素敵!)」


そんな周りからすれば困ったお姫様は吟遊詩人と出会った

そして今に至る




「姫は声にすごい素質があるからね
きっとすぐ上達するさ」

そう言われ上機嫌になってしまったのもこの頑張りの原因かもしれない






吟遊詩人が来てから四週間が経った


「ここがいいわ

ここはあたしのお気に入りの場所でね
今の時期は撫子の花が咲き乱れているのよ

…ああ、今日も綺麗。絶対月明かりの下のほうが素敵

こんな素敵な場所なんだもの。四次元の何とやらにも届くはずよ
…もちろんリアリィにもね」

「ああ、そう思うよ…

姫もロマンチストだね、こんな場所を選んでくれるなんて」
その顔は微笑んでいる




視線を合わせる
江戸と南蛮の誇りを乗せた自由への歌

「―――リアリィっ

あんたのために歌ってやるわ!


よく聞きなさい!!」


月に向かって声を張り上げる
凛とした声が花畑に響き渡る


そして鹿ノ子が叫んだその直後
演奏が始まった








春深く夢の輪郭を
ぼかして行き過ぎて舞い戻る
花びらは仕草を追いかけ
薄明かりの下で密やか


つまさきであやす月の兎は踊り
星の間を飛びまわる
口笛吹き

しぶき あがる わたし 駆ける
追いかける星は
まわる まわる ちいさなつぼみ

さいて さいて 月にお願い
おだやかな影に薄化粧

しらずしらず えいや!と投げた
つぼみは 行方知れず のまま

見下ろして小さくなった曇の間に
芽を出した線香花火
つぶらな夢

しぶき あがる
火花 翔る
問いかけた星は
かわる がわる 顔を変えた

さいて さいて くるりとまわる
舞姫の如く たまゆらに
思い思いに動く影と
背中を合わせて(ああ)
走る!


弧を描き 影は延びる
陽炎の先に
さいた あった!まあるい花が

さいた さいた 星の破片が
月の裏側で泣いていた
気づかぬうちに隠れてた
兎もまた弧描く

さいて さいて 月にお願い
おだやかな影に薄化粧
しらずしらず えいや!と投げた
つぼみは行方知れず

さいて さいた 風に揺られて
おだやかな坂は薄化粧
下駄鳴らして口笛合わせ
凛として はんなりの こころ




―――歌い終えた…



静寂を取り戻した空間に拍手が響く
振り返った2人の目に映ったのは青い実体化した影を連れた少年

吟遊詩人が口を開く
「…神…
何故此処に?」



神と呼ばれた少年は詩人の問いかけを流し姫の元へ近づいた



「――お前良い声してるな!

その歌、地球で披露してみないか?」


それは 姫の未来を変える問い掛け

だが、この歌はMの創った物
しかもこの歌はリアリィという探し物に思いを届けようという誓いの元彼が創った歌

鹿ノ子が詩人のほうを振り返ると彼は微笑んだ

「その歌はね、君のために創ったものだよ

君の才能に気づく人が、君の魅力に惹かれるよう願いを込めて創ったものだ」


「…M、いいの?」

「ああ、受け取ってもらえると嬉しいよ
リアリィも喜ぶさ、きっと聞いていてくれたはずだ」


「…答えは今じゃなくてもい「行くわ!」」

少年は驚いた顔をしている



「地球とやらに行ってあげる

あたしがそこで歌ってやるわ」

詩人とその探し物のためにも




撫子の花びらが風に吹かれて宙を舞った




詩人はその翌日星を発ったと姫に伝えられた
彼女は寂しさを覚えた。しかし涙は流れない。彼が残した歌は、彼が自分に残してくれた希望への道だ


「姫、姫に小包ですよ」
御付のものが持ってきた包みの中には赤いマイクスタンドが入っていた

「ええと…小さな女の子が渡すように、と…それから"素敵な歌をありがとう"だそうです」


「…ひ、姫、どうなされたのですか?」

「…っ
…聞いてくれてた…!!

あたしの歌は届いてた…!!」

彼女は喜びの涙を流す











詩人が発った翌々日

伝統を重んじる星のお姫様は

長い髪を自ら切り

"江戸"と"南蛮"に身を包み…



神からの招待状と
赤いマイクスタンドを片手に
城を後にしました


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