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Andante
朝です。



「……おい、なんでまだ寝てるんだこいつは」

「昨日何回か起きたからちゃんと睡眠取れなかったんだな」

「それで、お前も一緒に寝過ごしたのか?」

「おーいれーん!早く起きろー!」


ぼんやりと話し声が聞こえてくる。
取り繕うように俺を起こしにきた慧の叫び声で、俺の意識は覚醒した。


「うあ〜なんか頭いたい〜」


布団を体に巻き込むように寝返りを打つ。
時雨が盛大にため息をついた。


「練習に遅れるぞ」


妙なことが起きないようにわざわざ迎えに来てやっているというのに、と時雨は呆れた目で俺を見る。
時雨は今日も余裕を持って早めにこの部屋に来ているわけだが、それでも練習が始まるまであと20分をきっていた。


「れ……練習……」


ゆっくりと目を開き呟く。
かなり目覚めが悪く、眉をひそめたまま覚醒しきれない目を擦った。


「ぐあぁぁ〜、体がダルいぃ〜」

「だからしっかり部屋で寝とけって言ったんだ」


伸びをする俺に苦笑いしながら、慧がテーブルにトーストの乗った皿を置いた。
慧も遅くに寝た割には元気そうだ。羨ましい。


「早く顔洗ってこい」

「……あーい」


眠気に負けてぼーっと突っ立っていると、慧が眉を寄せ俺に言う。
遅刻はごめんだと洗面所に向かい顔を流すと、時雨が慧に説教をするのが聞こえた。


「いいか藤堂、母親というのは絶対に寝坊してはいけない存在なんだ」

「……そうだろうけど俺は母親じゃないからな」



困った声で言い返す慧のため、俺は急いで顔を拭き速やかにリビングに戻る。


「そうだぞ時雨!慧は母さんってよりは断然父さんだ!」

「いいから早く食べろよ息子」


朝っぱらからうるさい、と顔を顰めて時雨がトーストを顎で指す。
ああそうだ練習だった、と大人しくそれに従うと、慧がクスリと笑った。


「母さんは会長の方だったみたいだな」

「何か言ったか」


時雨が慧を睨みつける。
ヘタレな慧は一瞬で視線を逸らした。

時雨は確かに俺のことを気にかけてはくれるけれど、大抵の場合手は貸してくれない。
偉大だけど厳しい母親になりそうだ。
母さんは優しい方がいいなあ、なんて考えながらトーストをミルクで流し込みながら、ふと思い浮かんだことを2人に告げる。


「時雨がおかんならさ、お前たち2人は夫婦だよなあ」


ピシリと慧の笑顔が固まる。
時雨は余計なこと言いやがってと言わんばかりに力いっぱいげんこつを落とした。
頭痛ヤバイ、死ぬ……。



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