Andante
4
選抜合宿のためにJヴィレッジに行くと言う錬だったが、まさか会長も一緒だとは思ってなかった。
いつも通り迎えに来た会長にあれ?と首を傾げる間もなく、俺は慌てて錬を起こしに行った。
「おい急げ!」
「とっくに急いでんだろーがっ!」
現在、朝の6時。
合宿の集合時間は7時半。
それでもって10分前集合が原則らしい。
向こうについて部屋を探したりすることを考えると、こいつらは間に合わないんじゃないだろうか。
「お前も手伝えよ!」
錬が会長に絶叫する。
会長は優雅にソファーに座ったまま、あたふたと動く俺たちを眺めている。
一体この人は何のためにこの部屋に来たんだろうか。
俺はため息をついた。朝っぱらから俺の疲労は溜まりに溜まっていく。
「〜〜っお前何しに来たんだよぉぉおおっ!」
ついに錬が立ち上がり手に持っていたソックスを会長に投げつけた。
会長が素知らぬ顔で軽々とそれをキャッチする。
俺は錬と同じことを考えていたことに思わず吹き出した。
いやでも笑ってる場合じゃない。
それは鞄に入れるやつだろうと、俺は錬の頭を小突いた。
「だって俺、4時に起きて荷造りとウォーミングアップ終わらせるつもりだったんだぞ・・・っ」
「わかったわかった」
泣き言を言う錬を適当に宥める。
早起きするから明日は自分で起きる、と健気に宣言したはいいものの、残念ながら起きられなかったようだ。
俺もまさか寝過ごすとは思わず、さっきの会長のチャイムで起きてしまいこの惨事になったというわけである。
「だから荷物は昨日のうちにまとめろと言ったんだ」
「今それを言わなくてもいいだろ!」
「だぁーっ!もうわかったっつってんだろ早く動けっ!!」
遅刻して困るのはこいつらのはずなのに今荷造りをしているのは主に俺だ。
会長は何もしないのに錬の気をそいで度々作業をとめる。
おかしいな、俺の知ってる会長ならこう言うとき誰よりも率先してフォローしてくれると思ったんだけど……。
「あと5分で終わらなかったら置いていく」
今、会長は速攻で服を詰め込む錬を後目に玄関で突っ立ってる。
散々茶々を入れておいて飄々と我関せずを貫く会長は益々俺の知っている彼とは違っていた。
会長、錬に冷たい?
いやまさかな……。
「会長、錬も必死で急いでるんだからそんな追い詰めなくても……」
「お前が甘いから今こんなことになってるんだろう。俺じゃなくてあいつをどうにかしろ」
恐る恐るフォローしようとした俺に会長はハッキリそう言い捨てた。
錬だけでなく俺にも飛び火した……。
普段見せる人の良いさが全く垣間見えない。
まさかこれが素ってやつだろうか。
俺はちょっとげんなりしながら錬を見る。
無事に荷造りを終わらせるところだった。
「よっしゃ終わった!
とっとと駐車場行くぞ!」
錬が荷物を背負い込み会長を急かす。
「お前タオル入れてなかったぞ」
会長がしれっとそう言う。
「向こうで買うからとにかく急げ!」
錬が慌ただしく返して会長を追い抜いた。
俺は呆れた顔で会長に尋ねる。
「……タオルに気づいたってことはガン見だったってわけ?」
「……お前なんて西園寺監督に嫌われてしまえっ!」
俺の言葉を聞いて前方から錬の怒声が飛んできた。
会長は余裕の笑みを浮かべている。
錬、遊ばれてるな……。
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