Andante
3
「いらっしゃいませ、右の奥の方の席がだいぶ空いてましたよ」
「あ、どうも……」
ある晴れた昼下がり、僕らは半日ぶりの再会を果たした……。
「昨日のウェイターさんだよね……」
俺あのウェイターさんしか関わってないんだけど。
二日目なら別におかしくないのか……?
食堂に入るなり横からニッコリと声をかけられ、さすがの俺も少し驚いた。
こんだけ人で溢れてるのになんてタイミングだ。
だから狙われてんだってと慧が苦い顔で言う。
複雑な気持ちになりながら俺達は席に着いた。
ウェイターさんの教えに従い右の奥の席だ。
「見とけよ、運んでくるのも奴だ」
「お待たせいたしましたー」
美味しそうな料理を抱え、爽やかな笑顔の彼がやってきた。
「わー…………」
料理への賞賛が混ざった残念な感嘆が滑り出た。
ほれ見たことかと慧は舌を出す。
「君は……」
「は、はい?」
ウェイターさんはなぜかそのまま下がらず、じっと俺を見つめた。
そして身構える俺に笑顔で尋ねてくる。
「生野菜、食べられますか?」
「はい、大丈夫ですけど……」
よくわからない問いかけに俺は少し動揺しつつ返事をした。
「よかった!
これ、サービスです。藤堂君と2人で食べてくださいね」
言いつつテーブルの上に置かれたのは色とりどりのサラダだ。
「えっあの、いいんですか?」
昨日の事といい、個人的にこういうのは不味いんじゃ……。
助けを求めるように慧を見るが、慧は慧で衝撃を受けているようでピザを持ったまま固まっている。
「ご遠慮なさらずに」
ウェイターさんは笑顔で言い切った。
だけどその後みるみると視線を下へさ迷わせる。
やはり何かまずいことでもあるのだろうか。
黙って見守っていると、やがて彼はパッと顔を上げてまっすぐ俺を見てこう聞いてきた。
「あの、代わりといっては何ですが、お名前教えてもらっていいですか?」
照れたように言われたその台詞に俺は瞼を瞬かせる。
「ひょ、ひょうりゅうです……氷龍錬……」
びっくりしながら、ワンテンポ遅れて返事を返す。
「そっか、錬君」
ウェイターさんが確認するように呟いた。
もう一度ちらっと慧を伺うと、慧は既に硬直から抜け出し我関せずと食事を始めている。
このよくわからない状況から助けてくれる気はないらしい。
「錬君は、肉と魚介どっちが好きですか?」
「え…………魚かな……」
「じゃあ次はエビフライでもサービスしますね」
そう言いながらウェイターさんが嬉々として笑う。
まだ何かくれる気なんですか!
てかエビは魚なんですか!
ニコニコ笑い良くしてくれるウェイターさんが逆に怖くなってきた頃、更に増えてきた人を見てウェイターさんは慌ててテーブルから離れた。
「また、夜も食べにきて」
そんなことを言い残していくウェイターさん。
サービス精神旺盛すぎるだろ……!
「ひょっとして慧、仲良かったりする?」
「なわけないだろ」
不機嫌さを隠さずに慧が答える。
「でも慧の名前知ってたみたいだぞ?」
「…………そりゃ2年もいりゃ耳に入るだろ」
そんなものだろうか。
何となく引っ掛かった俺に、慧はハア、とため息をついた。
「……あいつ、多分高等部の奴だ」
「え。ここの従業員って生徒なの?」
「ここの学校は一応金持ち向けだし、一般人じゃ学費の負担無理なんだよ。
だから色々バイト用意して大幅免除してるんだと」
「なるほど。じゃああの人は……」
「外部から入ってバイトしてるんじゃないか」
へぇ。俺も来年はバイトだな。
……サッカーとの両立、いけるか?
現実的な悩みを抱えたまま、俺はもぐもぐとオムグラタンをかき込んだ。
トロトロ卵と濃厚グラタンが非常に美味でした。
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