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Andante



「いらっしゃいませ、右の奥の方の席がだいぶ空いてましたよ」

「あ、どうも……」


ある晴れた昼下がり、僕らは半日ぶりの再会を果たした……。





「昨日のウェイターさんだよね……」


俺あのウェイターさんしか関わってないんだけど。
二日目なら別におかしくないのか……?

食堂に入るなり横からニッコリと声をかけられ、さすがの俺も少し驚いた。
こんだけ人で溢れてるのになんてタイミングだ。

だから狙われてんだってと慧が苦い顔で言う。
複雑な気持ちになりながら俺達は席に着いた。
ウェイターさんの教えに従い右の奥の席だ。


「見とけよ、運んでくるのも奴だ」

「お待たせいたしましたー」


美味しそうな料理を抱え、爽やかな笑顔の彼がやってきた。


「わー…………」


料理への賞賛が混ざった残念な感嘆が滑り出た。
ほれ見たことかと慧は舌を出す。


「君は……」

「は、はい?」


ウェイターさんはなぜかそのまま下がらず、じっと俺を見つめた。
そして身構える俺に笑顔で尋ねてくる。


「生野菜、食べられますか?」

「はい、大丈夫ですけど……」


よくわからない問いかけに俺は少し動揺しつつ返事をした。


「よかった!
これ、サービスです。藤堂君と2人で食べてくださいね」


言いつつテーブルの上に置かれたのは色とりどりのサラダだ。


「えっあの、いいんですか?」


昨日の事といい、個人的にこういうのは不味いんじゃ……。
助けを求めるように慧を見るが、慧は慧で衝撃を受けているようでピザを持ったまま固まっている。


「ご遠慮なさらずに」


ウェイターさんは笑顔で言い切った。
だけどその後みるみると視線を下へさ迷わせる。
やはり何かまずいことでもあるのだろうか。

黙って見守っていると、やがて彼はパッと顔を上げてまっすぐ俺を見てこう聞いてきた。


「あの、代わりといっては何ですが、お名前教えてもらっていいですか?」


照れたように言われたその台詞に俺は瞼を瞬かせる。


「ひょ、ひょうりゅうです……氷龍錬……」


びっくりしながら、ワンテンポ遅れて返事を返す。


「そっか、錬君」


ウェイターさんが確認するように呟いた。

もう一度ちらっと慧を伺うと、慧は既に硬直から抜け出し我関せずと食事を始めている。

このよくわからない状況から助けてくれる気はないらしい。


「錬君は、肉と魚介どっちが好きですか?」

「え…………魚かな……」

「じゃあ次はエビフライでもサービスしますね」


そう言いながらウェイターさんが嬉々として笑う。
まだ何かくれる気なんですか!
てかエビは魚なんですか!

ニコニコ笑い良くしてくれるウェイターさんが逆に怖くなってきた頃、更に増えてきた人を見てウェイターさんは慌ててテーブルから離れた。


「また、夜も食べにきて」


そんなことを言い残していくウェイターさん。
サービス精神旺盛すぎるだろ……!


「ひょっとして慧、仲良かったりする?」

「なわけないだろ」


不機嫌さを隠さずに慧が答える。


「でも慧の名前知ってたみたいだぞ?」

「…………そりゃ2年もいりゃ耳に入るだろ」


そんなものだろうか。
何となく引っ掛かった俺に、慧はハア、とため息をついた。


「……あいつ、多分高等部の奴だ」

「え。ここの従業員って生徒なの?」

「ここの学校は一応金持ち向けだし、一般人じゃ学費の負担無理なんだよ。
だから色々バイト用意して大幅免除してるんだと」

「なるほど。じゃああの人は……」

「外部から入ってバイトしてるんじゃないか」


へぇ。俺も来年はバイトだな。
……サッカーとの両立、いけるか?

現実的な悩みを抱えたまま、俺はもぐもぐとオムグラタンをかき込んだ。
トロトロ卵と濃厚グラタンが非常に美味でした。

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あきゅろす。
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