Andante
3
「なんでここに……」
やはりここにくる生徒はなかなかいないのか、彼はひどく動揺しているみたいだ。
戸惑う彼を余所に、俺はようやく森から抜けられる事を喜んだ。
「ちょっと迷っちゃって。俺、転入してきたばっかだから」
「…………転入……」
イケメンはまじまじ俺を眺め、それから優しく微笑んだ。
「よろしく」
「よろしく!俺は氷柳錬。そっちは?」
聞くと、彼はフッと笑う。
「相葉時雨だ。迷ってたなら早く森の外に出たいだろ」
ついて来いと促すと、相葉はスタスタと今来た方へ歩いていく。
道らしい道もないのにどうしてこうも迷いなく歩けるんだろう……
段々と距離が開いていく背中を俺は必死に追いかけた。
5分も歩くと、森が薄くなり建物らしきものが見えてきた。
「ほら、もう出られる」
「おぉ!ありがとう相葉!」
自分の見知った場所に出て俺は心底安堵した。
「転入したてでこの学校を1人でまわるのは無茶だぞ」
呆れたように言う相葉に苦笑いする。
身にしみました。
「本当助かったよ。また次会ったときに礼はするから!」
今は一刻も早く部屋に戻らなければ。
走って寮に向かおうとする俺の肩を相葉が引き留める。
「連れていく。また迷われたら森で拾った意味がない」
「あ、すごいありがたい……!」
適当に駆け出そうとする俺に微笑む相葉は神様に見えた。
けれど相葉は俺が急いでるのに気付いていないようで、おじいちゃんみたくゆっくり歩いている。
けど案内してもらってる立場で遅いなんて言えず、俺はニコニコしながら内心汗だくだった。もちろん冷や汗の方だ。
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