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Andante
障壁



「昨日より人少ないな」

「少ない時間を選んだんだよ」


今の食堂には昨日の三分の一くらいしか人がいない。
来る時間帯でこんなに変わるんだな……。


「人は少ないのに視線の量はあんま減らないのな……」


席についただけなのに周りからひしひしと視線を感じる。


「慣れろ。
錬の場合は珍しがられてるだけじゃないから仕方ない」

「無茶言うなよ……」


全くもって落ち着かない。
昨日の俺は一体どうやってこの視線をやり過ごしたのだろう。
ため息を押し殺して俺は朝食を決める。


「やっぱり朝は和食だよなぁ」

「同感だ」


俺は和食Aセットを、慧はBを注文した。


「おまたせいたしました」


ウェイターさんがホカホカと湯気を立てる定食を運んできてくれた。

慧は昨日と変わらぬ超スピードでそれを平らげる。
俺も早くここから出たくて、負けじと朝食を掻きこんだ。



そうして食事を終え、足早に自室へむかう俺たちの前に誰かが立ちふさがった。

背の低い人とゴリマッチョの二人。……気持ち良いほどの正反対っぷりだ。


「と、藤堂くん……?」


最初に口を開いたのは小さい人。

おどおどした感じがかわいいが、慧は特になにも感じないようで愛想悪く答える。


「なに」

「ちょっと来てもらってかな……」

「無理」


ズバッと即答。一言で切り捨てるあたり知ってる人じゃなさそうだ。
告白だろうか?
でも2人で来てるってことは違うか?
興味本位で2人を窺う俺を後目に慧は不機嫌そうに言い放つ。


「何か用ならここで話しせば?こっちだって用事があるんだけど」


目をとがらせ全身で威嚇する慧に2人はしょんぼりと黙ってしまった。


「行ってやりなよ慧」


関係ないとは思いつつも、2人があんまりにもかわいそうで思わず口を挟んでしまう。


「そんなこと言って、お前一人で部屋に戻れるのか?」


慧が鋭く目を細め聞いてくる。


「あー…………駄目だったら助けに来て」


それを聞いて慧は帰るぞ、と俺の肩を掴み2人の横を通り抜けようとした。

俺は慌てて慧の体を反転させて2人の方へ背中を押した。


「おい錬……!」

「行ってやれって、俺のことは気にしなくていいし!」


威勢良く言い切って、心配そうに振り返る慧を顎で促す。
慧はやはり心配そうだったがそれでも、渋々頷いた。


「………………わかった。
なるべく早く戻るから、お前はこのまままっすぐ部屋戻れよ」

「おう」


2人と一緒に慧が着いていくのを見送って、俺も自室へと足を動かした。

…………はずなのだが、俺は未だに自分の部屋を見つけられていない。

例によって例の如く迷ったのだ。
エレベーターにさえ乗れればと思ったのだけどまさかのエレベーターが見つからない。

今俺がいるのは完璧に初見の場所で、図書館、情報広場に上映場なんてものもある。

聞きなじみのない場所に好奇心を擽られてしまい、俺は慧に謝りつつ辺りを捜索した。

途中見つけたエレベーターにも乗ってみたけれど、ひょっとしたら俺は寮棟じゃない建物まで来てしまったのかも知れない。
降りた先はよくわからない部屋がいくつか並んでいて、少なくとも生徒の住む寮ではなかった。

どこから建物が変わったかは気付かなかったけれど、ひとまずここから出なくてと思い至り、とうとう探索の場は外にまで至った。

生ぬるい風に頬を撫でられながら周りを囲んでいる森の道なき道を歩いて辿り着いた場所は……


「みずうみ…………?」


光を受けて輝く、透き通った青だった。
迷子もここまで来ると遭難だわ。



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あきゅろす。
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