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Andante
一日目



「―――錬!おい錬!?」

「………………ぁ?」


ぼんやりと涙を拭いた俺の耳に、ようやくピピピピピと鳴る目覚ましと、ドンドンと扉を叩く音と自分を呼ぶ声が届いた。
目覚めて見ればとんでもない騒音だ。

俺は急いで目覚ましを止めるとがんがん叩かれているドアを開いた。


「やっと起きたな!
寝起き悪いなら最初にそう言っとけよ!」


慧が恨めしそうに俺を見る。
目覚まし時計が鳴り続けたのが迷惑だったんだろう。
鍵も閉めてたから慧も止めれなかったし。


「ごめん、明日からは鍵閉めないように気を付ける」

「いや起きる努力をしろ!」

全くもって正論だが俺は聞こえないフリをした。
慧は全く、と言いながらもそれ以上とやかく言ってこなかった。
さすが保護者属性は心が広い。


「ほら、早く食堂行くぞ、支度しろ」


俺の腕を引っ張り体を起こさせると、慧は部屋を出て行った。

慧も寝間着のままだったし、着替えにでも行ったんだろう。


「……俺も着替えるか」


まだ寝起きの気だるさを引きずったまま服を着替える。


ジーパンにTシャツ……

少しありきたり過ぎる気もするがまぁいいだろう。


適当に服を決め、顔を洗いに部屋を出る。



「昨日はよく眠れたか?」


服を着替え終えた慧が聞いてきた。


「もちろん。
やっぱりフカフカベットはいいよなぁ」


体が沈みすぎちゃうから少し違和感もあるけど。


「お前順応性あるなー。
俺は最初の頃は一睡もできなかったぞ……」

「怖くて?」

「馬鹿言うな」


にやけながら言うと、慧がペシッと額をはたいた。




玄関で靴をはきかえる。

俺も慧もカードキー以外持っていない。


「俺が来るまでは一人部屋だったのか?」

「ああ」

「まじか。悪いなぁ」

「いや、1人じゃつまんなかったし錬が来てくれてありがたい」


さわやかな微笑みとともに言われた言葉に、俺は思わず照れた。

俺の友達には素直な奴は少なかったから、こういうかわいい台詞には慣れていないのだ。


「……てかどうして一人部屋だったんだ?
お前一番頭よかったりしないよな?」


それを聞いて慧が微妙な顔をする。


「俺に頭のことは聞くな」

「なに、慧頭悪いの?」

「…………良くはない。
てかもうちょっと包み隠して聞けよ」


これは……ラッキーなんだろうか。

頭のレベルは近い方みたいだが、勉強は教えてもらえないかもしれない。


「で、錬はどうなんだよ。
勉強できる人?」


慧からは微塵の悪意も感じない。

だがその問いかけは、俺の気持ちを、テンションを、一気にどん底へと突き落とした。


「…………慧よりも悪いとだけ言っておこう」

「はあ?ねぇよ!
俺より悪いやつは相当あれだぞ?」


そこまで言うほどの成績なのかお前は……!

まあどんなに悪くても俺以下はあり得ないだろうけどさ。


「逆だよ。
俺より下だったらお前の居場所はここじゃない!」

「そんなにか!?
……それはジョークか、それともマジか?」

「冗談にしたいマジ話」


慧の表情が固くなる。


「わかった。
じゃあ飯食ったらお前に課題手伝ってもらうよ」


それで俺のバカさ加減をはかるわけですね。


「めっちゃ時間かけて食わなきゃな!」


意気込む俺に、慧が苦笑した。




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