Andante
乱入
「…………」
「……………………」
笑顔に溢れた理事長室を出て、スーパー無言タイム再び。
しかも心なしか、鳳さんからピリピリしたオーラが出ている気がする……。
確かに案内をお願いしたり待たせたり、迷惑をかけてしまっているのだけど、不快そうに一緒にいる鳳さんが悲しくって寂しくて、俺は無意識にため息をついた。
「なんだ」
それが聞こえたらしく、鳳さんは足を止めくるりとこちらを振り向いた。
「な、なんでも……」
「文句があるのなら言えばいいだろう」
「いや、ほんとに何にもないですって!」
少し語尾がキツくなる。
このくらいの反抗は許してほしい。
文句があるなら言えばいいなんて、それは俺の台詞だと思う。
「人前でため息をついておいていて何を言う」
何でもないって言ってるのに絡んでくる始末。
さっきまで黙ってたのにどうしてこんなことで……。
鳳さんの苛立ちが伝染したのか、フツフツと俺の中にも攻撃的な感情が湧いてくる。
いやいや、年上だし……。
でも突っ掛かってきたのは鳳さんじゃん……。
「あれー?
なんで二人ともここにいるの?」
一発触発な俺たちへ、気の抜ける声がかかった。
…………なんで?
こっちが聞きたいです、菊岡さん。
「……ついさっき理事長との話が終わったところだ」
何事もなかったの様に返事をする鳳さん。
よく考えたら、さっきの喧嘩が鳳さんとの初めて会話になるんだよなぁ。
……あんまりじゃないか。
しゃべりかけてくれたと思ったら突っかかってくるなんて。
さっきのことを思い出すと、腹が立つというより悲しくなってくる。
……だめだ、完璧に気分がへこんでしまった。
「へぇー、じゃああそこの部屋が理事長室かあ。
随分長く喋ってたんだねぇ、錬君」
「あ……まぁ…………」
うだうだ考え込んでいると菊岡さんが素敵スマイルを向けてきて、俺はハッと意識を戻して辛うじて返事を返す。
せっかく話を振ってくれているのに何をやってるんだろ。
こんな態度じゃ失礼じゃないか…………。
「……そっか。
ほら学!錬君疲れたみたいだし早く寮に案内してあげなきゃ!」
菊岡さんが鳳さんを促す。
ちょっと違うが、菊岡さんなりに気を使ってくれたようだ。
優しさが身に滲みる……。
「……おまえはどうする」
鳳さんが菊岡さんに尋ねる。
ぜひ付いて来てください菊岡さん!
もちろん口には出さないけど、切実な願いだ。
あんなことの後に鳳さんと二人きりなんて、とてもじゃないが恐ろしい。
「行く行く!
いやぁ生徒会室に行こうとしたら完璧に迷っちゃってさぁ。
ついでに案内してよ」
あはは、と頭をかく菊岡さん。
「……そうか」
しばらく菊岡さんを見据えると、鳳さんは歩き出した。
「行こ?錬君」
菊岡さんが俺の手を引いて歩き始める。
俺はそれに逆らわず、引っ張られるがままに歩いた。
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