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Andante
理事長1



「で、早速だけど君に教えておきたいことがあるんだよね」


火照った体を冷ましてくれる甘くて濃厚なおいしいミルクティーに感激している俺に、理事長がこう切り出した。
ひとまずカップを置き、何でしょうかと尋ねれば、彼はニコリと細めた目をゆっくりと開いた。
切れ長のその瞳は、非常にゆるかったその場の空気をなんとなく鋭くさせた気がした。


「まず生徒について。この学校には親衛隊がある生徒がいてね。彼らに近づくと親衛隊が何らかの形で嫌がらせをしてくる場合があるんだよ」

「……まじですか」


笑顔を消して切り出した理事長のその言葉に、きょとりと目を瞬かせたあと思わず眉をしかめる。

親衛隊って、ファンクラブみたいなものだろ?
それが学生にあるのも驚きだしそこからいじめに派生するのも信じられない。
人気があるから親衛隊がある筈なのに、逆に人付き合い難しくなっちゃうんじゃないか?


「それが原因で退学しちゃう生徒もいるから、ならべく親衛対象者には近寄らないようにして欲しいんだ」

「退学…………」


そんなに酷い嫌がらせ?
それはイジメっていうんじゃないか?

告げられた学校環境に思わず絶句してしまう。


それに、話的にその生徒が問題児というわけでもなさそうなのに、先生が生徒に近寄るな、なんて言っていいものなのか?
普通イジメた親衛隊側をなんとかするんじゃ……


「わかったかな?」

「…………」


素直に頷ける内容じゃないなと黙っていると、釘を刺すように理事長が再度聞いてくる。



「下手に近づくと本当に危険なんだ。
約束してくれるね? 」


理事長の顔は真剣そのもので、心から俺のことを案じてくれていることが伝わってきた。
だからこそ、俺は返事に詰まる。

納得がいかない、というか理解が追いついていない気もする。
同じ学校の仲間に対して関わらない、近寄らないなんて警戒心を抱くのは、これまでの俺には考えられないことだった。
先入観を煽るような理事長の言葉もどうかと思う。
けれど、ここで平穏に過ごすにはそれが必要だというのも確かなのだろう。



「わかりました」


煮え切らないながらも、まっすぐ理事長を見据えそう答える。


「うん、いい子だね」


理事長は素直に応じた俺によしよしとでも言いた気に満足そうに笑った。
……バカにされてるのかな?


「もう1つは成績の話なんだけど…………知ってるかい?錬くん」

「はい? 」

「君は我が校初の裏口入学者なんだ」

……?

……………………!?


「っっう、裏口入学っ!?」

「残念だけど成績が足りなくってね。
こういうのは僕のポリシーに反するんだけど……」


苦笑いする理事長。

え?え!?


「サッカーで推薦……とかの、間違いじゃ……」


それなら菊岡さんが俺がサッカー部だって知ってるのも頷ける。
それに裏口なんてもの使う金、うちには無いはずだ。

ひょっとして化かされているのだろうか。
まさかと思い尋ねる俺に理事長はスッと目を細めて答える。


「あぁうん、うちスポーツ推薦やってないんだよね」


まじですか。
裏口入学なんて現実にあるとは思わなかった……。
てか裏口入学者が俺だけでスポーツ推薦なしってことは馬鹿なのは俺だけ……?



「うっわぁ……」


知りたくなかった……。
学校居辛ぇわ。
馬鹿馬鹿言われてイジめられてる哀れな俺が想像できる。
なんで裏口使ってまでここに入学させたんだ母さん、理事長……!




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あきゅろす。
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