Andante
到着3
「……遅いなあ」
元気な人が部屋に入ってから既に10分たった。気がする。
やっぱり広いから人を呼ぶのにもそれなりに時間がかかるのかな。
「おい」
暇を持て余していると、不意に誰かから声をかけられる。
声をした方を見ると、そこには赤い髪の毛で相当目つきの悪い典型的な不良さんがいた。
「てめぇ、校舎棟でなにしてやがる?」
お金持ち校にもいるんだなあ、なんてぼんやり考えていると、不良さんが凄まじく鋭い眼光で俺を睨んできた。
男前な分かなりの迫力だ。
刺すような視線とはこのことをいうのだと身をもって体験させられる。
「理事長に挨拶しに来て、今は案内待ちです……」
どもらなかった俺を褒めてほしい。……まぁ声は少し小さくなってしまったけど。
だって赤毛さん、顔が怒ってるし声に敵意が滲み出てるし恐いんだ……!
ビビりながら辛うじて説明すると、途端に不良さんの目つきが和らいだ。
眉間のシワがなくなるだけで背負っていた禍禍しいオーラが薄れる。
「あー、誰が対応したかわかるわ。まあどんまいだな」
声もピリピリした感じではなくなっていた。
赤毛さんの視線はさっき渡された冊子に向けられていたし、転入生だと察してくれたのだろう。
労うような言葉と呆れたような微笑にホッと息をつく。
見た目は恐いけど悪い人ではなさそうだ。
「理事長に会いに行くなら化かされねえようにしろよ」
「……え?」
赤毛さんの言葉がうまく飲み込めずパチパチと目を瞬かせる。
「ここの理事長、狐って呼ばれてんだ。見た目もなんだが中身も食えねえ。
意味ありげな言葉並べて思わせぶりにニヤニヤして、こっちが苛立ったり反応すると一層喜びやがる」
何か嫌な思い出があるのだろうか、今でも腹が立つと言うように赤毛さんがぐしゃりと顔をしかめる。
…………怒った顔の赤毛さんを見て笑うなんて、度胸あるよな、理事長。
俺の頭ではイマイチ理事長の人物像が想像できなかったが、凶悪な顔をしている赤毛さんに詳しい話を聞くのは躊躇われた。
まあでも今の話からすると、理事長がS属性なのは間違いないだろう。
「お前も翻弄されないように気をつけな、俺はもう行く」
赤毛さんは何かの用事の途中だったそうで、一通り話終わるとその長い足で颯爽と去って行った。
「あ、ありがとうございましたー……」
赤毛さん、忙しい合間を縫って話してくれてたんだなあ。
やっぱりいい人そうだ。
今度会ったら名前、聞けると良いな。
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