Andante
到着2
フラフラ歩く俺の目の前に広がるのは、果てしない緑と麗容なアンティーク。
…………アウェイだ。アウェイすぎる。
野生のバンビが出てきそうなこの空間を一人で歩くなんて、女子ならはしゃげるんだろうけど俺には少し辛いものがある。
立派に咲いた色とりどりの花も、美しい装飾が施された噴水も、確かに綺麗ではあったが普段見慣れないそれらは逆に俺の心細さを増強させた。
「……あ、薔薇」
庭に薔薇とかベルサイユかよ。
……なんてくだらないフレーズが頭に浮かぶ。
せめて話し相手でもいたらな、なんて思ったけれど一人を選んだのは自分なのだ。
黙々と歩き続け、煌びやかな庭園をぬけると、ようやく建物の入り口らしきものが見えてきた。
中に入ると事務室の看板がある部屋が現れる。
これでようやく案内が受けられるな。
とっとと自分の部屋に行きゆっくりしよう。
俺は早歩き気味に事務室へ進む。
「すいませーん」
「はーいなんですかー?」
窓口に向けて呼びかけると、返ってきたのはやたら明るい声。
返事をしたのは幼い顔をしているけれど背の高いお兄さんだった。
「あの、はじめまして、今日からお世話になる氷柳錬です。えっと、理事長に挨拶したいんですけど……」
ドキドキしながら初っ端の挨拶をすると、お兄さんはぱあっと効果音が聞こえてきそうな満面の笑みで返してくれた。
「うんうん聞いてる聞いてるー!サッカー部の錬君だよね!」
え!?
なんで部活まで知れ渡ってるんだ!?
待ってたよー!なんて言いながらガサゴソ書類を取り出すお兄さんにぎょっとするが、そんな俺を余所にさくさくと話が進められる。
「僕は菊岡令司、事務員だよ!学校の色んな事を手伝ってるんだ。
なにか困ったことがあったらいつでもここにきてね!!」
「ありがとうございます」
「困ったことがなくても来ていいからね!!」
溢れ出る元気と少年っぽさ。
裏のなさそうな笑顔に安心する。
こっちも元気をもらえそうだ。
こんな笑顔で迎えてくれるなら毎日事務室通うぞ、俺。
「それじゃあ早速理事長室に………」
案内を、とは続かずに、菊岡さんはあれぇ?と首をかしげた。
「理事長室ってどこらへんだったっけ?」
頭の上に目に見えるような?を浮かべ呟いた彼に思わず絶句する。
事務員が校舎内把握できてなくていいのかな……?
「ごめんねー、場所忘れちゃったみたい」
「そうですか……」
ニコニコと悪びれずに伝えてくる菊岡さんに俺は少し疲れた笑みで返した。
「案内してくれる人呼んでくるからちょっと待っててねっ!
戻ってくるまでこれ、読んでて」
そう言うと菊岡さんは部屋の奥へ消えてしまった。
渡されたのは学園の校則などが書いてある冊子だった。
あまりの厚みに読む気がマイナス値に振り切ったが、手持ち無沙汰なのでぱらりと適当にページを開く。
第0条、学校及び寮内では生徒等は明るく仲良く元気よく生活すること…………
俺は冊子をそっと閉じた。
ずいぶん子供向けな校則だけど、実は菊岡さんが本当は校長先生だとか言い出さないだろうな……。
全く予想のつかないこの学園に、俺はあらぬ方向に考えを巡らせるのだった。
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