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Andante
話し合い

「委員長、まかせたぞ」

「はい」


担任に言われ、クラス委員長の黄寺金君が教卓へ向かう。
文化祭が近いため、ホームルームはすべて文化祭の準備に使われるそうだ。
ちなみに文化祭の準備は夏休み期間中にほぼ済んでいるらしく、そう時間を費やすこともないだろう。


「いよいよ文化祭も近くなりましたね。
私たちは喫茶店をやるわけですが、衣装も殆ど出来上がってるみたいですので週末には衣装合わせができますよ」


委員長の言葉にクラスが沸いた。
よくわからないけど俺も便乗して拍手してみる。と、どうしてだか委員長とバッチリ目があった。


「それで氷柳君ですが、接客にまわってもらおうと思います」

「え!?俺裏方でいいよ、料理やってみたいし。衣装もないだろ?」

「いえ、あなたにはぜひミニ丈浴衣ワンピースをきていただきたい」

「ええええやだよ俺裏方がいいよ!」


真面目そうな彼から飛び出したマニアックな発言に思わず寒気を感じる。

スカートを履くなんて嫌だ!
そもそも制服にミニ丈浴衣ワンピースをチョイスする喫茶店っておかしいだろ!

なぜかうっとりと目を細める委員長に抗議すると、彼は眼鏡の奥でキリリと顔を引き締めた。


「少なくとも接客はしてもらいますよ。藤堂君も接客だし問題ないでしょう?」

「慧もスカート履くんだ!?」

「彼は軍服のコスプレです」

「暑っ!!」

「聞いてねえぞっ!?」


飄々とことを押し進めていく委員長に俺も慧も思わず叫んだ。
ちなみに私は調理室で指令係です、と笑って委員長は更に続ける。


「衣装は軍服、新撰組、浴衣、ミニ丈浴衣ワンピ、ショーパンカウガール、ゴシックフリルメイド服、セーラー微透け女子制服。
以上がオリジナルで他は漫画やアニメなどのコスプレなどですね。
接客要員12名、全員被りはありません。……ああ、コスプレのほうにもメイド服があって似てしまうものはありますが」

「……ごめん浴衣以降聞き取れなかった」

「チョイスがマニアックすぎる気がするんだが」


当たり前すぎるツッコミを受けても委員長は余裕の笑みだ。
みんなはこの衣装のチョイスに不満はないのかと見回すと、彼らの注目は衣装のことよりも立ち上がりっぱなしの俺たちにあるようだった。

慌てて席に座れば、察したように慧も腰を下ろす。


「委員長、何で俺は調理組じゃだめ?」

「注目度の高い人間を前面に押し出すのはごく当然のことでしょう」


腕を組みながらそう言い放つ委員長は威圧的だがそれすら許せるほど美人さんだ。
確かにこんな時期に転入してきて嫌でも目を引いている自覚はあるが、それでも納得しきなくて俺は苦し紛れに言葉を続ける。


「そりゃ俺は新顔だから目立つんだろうけど。
でもこの学校ってイケメンが人気なんだろ?だったら俺じゃなくてもいいじゃん」

「ほう、君以外に適任がいると?」

「そうそう。このクラス皆イケメンだし選び放題……」


「……氷柳、ここに髪の毛で辛うじて中の下の位置を保っている男がいるわけだけど」

「は!?森山は普通にイケメンだって!」


適当に言葉を連ねる俺に、何が気に障ったのか遠い目をして嘆き始めた斜め後ろの席の森大和、通称森山を俺はお呼びでないとはねつけた。
森山はくっと拳を握ると尚も食い下がってきた。

「そんなフォローは……」

「ぼ、僕、森くんの一重好きだよっ!!
もちろん髪型もカッコいいし、優しいし、テニス上手いし……森くんはすごいイケメンだよ!」

「斉藤……っ」


突然立ち上がって声を張り上げた斎藤君。
顔を真っ赤にした彼に、森もカアー、と頬を染める。
一体何事。


「そうだ、森はイケメンだ……。でも俺は背も低いし、目だって……。
氷柳、俺こそがこのクラスの一番の不細工なんだ……っ!!」

「ちがう!島村は癒し系だ!プニプニのほっぺたも、三白眼も愛おしい!」

「僕のほうが何倍もキモイよ……」

「何を言うの剛志はかわいいじゃん!僕は……」

「ばか、俺だって……!」

「待てよ!俺なんて本当に……」




「…………もう私達全員イケメンということでいいですね」


クラスの大半がハァと息を乱し、一通り悪ノリが収まったところで委員長がとうとうコントのような告白大会に終止符をうった。

最初は驚いたものの段々楽しくなっていった茶番劇だったが、委員長のスッとした瞳が段々と冷えきり怒りを帯びていく様を見て思わず笑いも止まってしまった。



「……でもさあ、あいつ……」


クスクス笑いながら誰かがぼそりと言った。
途端に不穏な空気が教室に流れた。


「彼には裏方がお似合いだよねえ」


クスクスと嘲笑の声が聞こえる。
彼らの視線の先は俺の一つ後ろの席に向いていた。
嫌な雰囲気を感じて、俺はムッとして口を開く。


「藤咲君は」

「誰がイケメンだとかなんて心底どうでもいいんです、もう配役は決まりました。
氷柳君がとっとと接客しますとさえ言ってくれれば全ては解決するんですよ」


俺を遮って教壇を降り、つかつかと俺に歩み寄ってくる委員長。
思わずビクリと身を軋ませる俺に、委員長はダンッと机を叩いて迫ってきた。



「接客係りは接客中ならどの料理でも食べ放題、ということにしましょう。そしてあなたには生足ショーパンを穿いてもらう。
これで満足ですね?」


満足もなにも俺の希望微塵も叶ってませんよ委員長。

そんなことを思いながらも俺は余りの勢いに思わず首を縦に振ってしまった。
よろしい、と踵を返す委員長にパチパチと拍手の音が聞こえてくる。

ここのクラスは意外にも恐怖政治なんだなぁと思わずにはいられなかった。




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あきゅろす。
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