Andante
出だしは順調?
「……夏休みがあけたその次の日にはもう六時間授業……?」
「当たり前だろ」
ぐったりとうなだれる俺に慧がすっぱりと言った。
でも俺のいた学校は短縮だった気がするぞ。
市立と私立の違いってやつか……?
「ほらシャキッとしろって、もう教室着くぞ」
「うううう……」
階段を登りきるとますます足が重くなった。
ここまで教室に入りたくないと思ったのは初めてかもしれない。
「絶対授業着いてけないよなあ……」
夏休みにかじった教科書のレベルの高さを思い浮かべ、泣き出しそうになりながら呟いた。
こればかりはフォローできないな、と俺の学力を知っている慧は頬を掻く。
「おはよー慧君、氷柳君!」
「あ、仲間君おはよー……」
後ろからカラリと元気な声がかけられる。
羨ましいよ、俺にもその元気を分けてほしい。
「昨日も一緒に帰ってたけど仲いいの?」
一緒に登校する俺と慧を見て、ニコニコと仲間君が尋ねてくる。
「同室だ」
「へぇぇぇえ!」
俺が口を開くよりも早く慧が答えた。
俺と仲間君の間にスッと体を滑り込ませたのに気付かないのか、仲間君は全く反応せず、むしろますますテンションをあげた。
「いいなあ、僕同室の人他のクラスで寂しいんだあ。
仲良くしてね、錬君!」
「うん、よろしく」
よかった、早速友達ができた!
クラスメートが優しくてよかったと俺はホッと肩を撫で下ろす。
嬉しさで授業への憂いも少しだけ和らいだ。
「はい、席についてー」
まあその幸せも先生の顔を見た途端に塗りつぶされたが。
「錬、次体育」
「やっとかー!」
俺は光の早さで授業道具をしまい体操服を引っ張り出す。
「慧、やっぱり授業駄目だったよ。英語とか特に心折られた……」
「国際交流で使うからみんなある程度は話せるんだよなぁ……」
苦笑いしながら慧が言った。
まだSVOCさえ理解できていない俺を取り残し、みんなは外国人の先生と英語でやりとりしていたのだ。
「俺大丈夫なのかなぁ……」
このままじゃ進級出来るような成績は取れない気がする。
てか取れるわけがない。
体操着を着ながらため息をついた。
そんな俺の背を慧が教室の外へと押していく。
「慧くん、一緒に行こうよ」
パタパタとかけてきて仲間君とその友達が言ってきた。
「……俺こいつと行くから」
慧は素っ気なく返すとそのまま俺の背を押した。
「一緒に行けばいいのに」
きょとりと呟いた俺に慧がぐっと眉を寄せる。
「ぞろぞろ集まってこられても困るだろ」
冷たく言い放つ慧。
仲間君への辺りが随分強いなあ……。
階段に差し掛かりながら、俺はやれやれと息を吐く。
あ、ちなみにこの学校は校舎にまでエレベーターが設置してあるそうです。
俺達は二階だから使わないんだけどね。
「そういや今回の授業はなにやんの?」
「一回目は科目決めからだな。
ドッチボールかテニスかゲートボールだった気がする」
うーん……どれもあんまりやったことない競技だ。
「慧やりたいのある?」
「特にないな……錬は?」
「俺も。でも強いて言うならテニス?」
ラケットを持つと言うのは俺にしてみれば滅多にないことで好奇心がそそられる。
「じゃあ決まりだな。
でもこのクラス、テニス部多いぞ?」
「上等!うまいやつとやった方が成長も早いしね」
「頼もしいな」
張り切る俺に、怪我はするなよと慧が笑う。
「今日は競技決めるだけ?やらないの?」
「短くなるけどやるはずだ」
早速揉まれるな、とケラケラ笑う慧に俺も釣られて笑う。
靴を履き替えてグラウンドに行けば、既に体育講師が仁王立ちで生徒を待っているところだった。
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