Andante
いざ!6
「ただいまー」
「おつかれー」
気の抜けた声がリビングから届いた。
きっと慧がソファーに座りながら扇風機で涼んでいるんだろう。
「風を譲れ〜!」
ダッシュで慧のもとに駆け寄れば、予想通り慧はソファーで漫画を読みながら風に当たっていた。
「なんか随分早かったなぁ」
「なんか知らないけど早めに切上がった」
「高等部で練習試合がたるからだ。話を聞いておけ」
「会長!」
のっそりと口を挟んできた時雨に慧が漫画から顔を上げる。
「来てたのか」
「こいつが引っ張ってきたんだ」
仏頂面で俺を見る時雨に、慧がクスリと頬を緩めた。
学校から帰って昼食を終えたあと、俺は時雨と共に部活に向かった。
わざわざ高等部のグラウンドまで行ったというのに、俺達がボールに触れたのは先輩達のウォーミングアップの時だけだ。
それが済んでしまえば後は先輩達の試合を眺めるだけ。
しかも相手も張り合いがなく面白くない。
監督もそんな鬱憤を感じたのか、一試合だけ見学させると後は自主トレで構わないと早々に俺達を解散させた。
「――で、なんで錬は会長を引きずってきたんだ?」
「ゲームするために決まってるだろ!」
俺は満面の笑みで慧に戦利品を見せる。
部活のとき、はらだこと茨田(いばらだ)に借してもらったゲームだ。
「お前また借りてきたのか……」
「だって前借りたのはRPGじゃん。今回はみんなでやるの」
呆れ笑う慧を横目に俺はゲームをスタンバイする。
「時雨?」
ゲームソフトをセットしソファーに戻ろうとしたところで、立ったままで何か言いたそうな時雨に気がつく。
「どうかしたか?」
ゲームは嫌いなのだろうか。
夏休みに誘ったときも、時雨は相手にしていなかった。
「……いや、なんでもない」
言うと、時雨は一つため息を落として大人しくソファーに腰を下ろす。
ジト目で問いつめてみても時雨はどこ吹く風だ。
そんな俺たちを知ってか知らずか、慧がそれにしてもと口を開く。
「今日早く部活が終わるって知らなかったんだろ?
どうしてゲームなんて借りたんだ?」
「めでたく転入を終えたお祝いのゲーム大会っ」
「錬は祝い事が多いな……」
きっと選抜合宿を終えた後のプチパーティーのことをいっているのだろう。
「些細なことでも盛大に喜ぶのが幸せの秘訣なんだよ」
麦茶を飲みながらそんな事を言えば、慧が名言だな、と笑った。
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